塩の表示ルール

2020年11月現在、日本には食品用として200を超える種類の塩が流通しています。
かつての日本は、塩をつくるための資源や塩づくり環境に恵まれていなかったため、塩は「塩専売制度」によって管理されてきました。
やがて塩専売制度は廃止され、新たに塩事業法という法律が施行されました。
その結果、塩をつくる業者が増えましたが、食品としての塩はすべて塩事業法に則って製造され、流通しています。
ここでは、実際の商品パッケージでもよく目にする「塩の表示ルール」についてみていきましょう。

表示ルールで守られている

塩の誇大広告と戦った消費者

日本ではかつて、国営の施設が塩を販売していた時期がありました。
1905年に、塩の需給と価格の安定を目指し、日本専売公社による「塩専売制度」が始まりました。
92年続いたこの制度は1997年に廃止され、日本専売公社も民営化されました。現在は「塩事業法』という法律に則り、自由市場で取引されています。 ※1、2、3

2002年には、塩の製造・販売・輸入が原則自由化されたにもかかわらず、塩の品質や安全性については何もルールが決められていない状態でした。
そのため、「好きなように事業ができる」と新規参入する事業者が激増しました。
新規参入者の増加により、塩の販売競争は激化するとともに、誇大広告や思わせぶりな優良誤認表示と思われるものが多くなってしまいました。※1、2、3
販売されている塩に対する消費者の疑問や問い合わせ、苦情などに応えるため、東京都の消費生活総合センターで商品テストが行われました。
その結果、消費者に誤解を与える表示が多いと判断され、国に表示の是正を要望する運びとなりました。※1、2、3

塩のパッケージに対する消費者の疑問から始まった商品テストは、国をも動かす事態へと発展しました。※1、2、3
塩専売制度がなくなってから「食用塩公正競争規約」ができるまでには、長い年月がかかったのです。
今、私たちが安心して塩を購入できるのは、過去に国を巻き込んだ大きな動きがあったおかげです。
過去の消費者が、今の消費者を守ってくれているともいえます。※1、2、3

塩の表示方法

公正取引委員会の働きかけにより、塩業界では自主基準を策定する動きが始まります。
各社の事情を乗り越え、2003年に業界協議に入ることになります。
2008年、食用塩公正取引協議会が発足し、「食用塩公正競争規約」が発効されました。商品の信頼性向上のため、不正競争防止法・農水省加工食品品質表示基準・食品衛生法などの国の基準を満たし、製法・原料原産地を表示するなどして、公正取引委員会の承認を受けたのです。※3、4

「食用塩公正競争規約」は、包装された小売用の塩で、塩化ナトリウム含有量40%以上、固形のものが対象です。
塩製品の多くは、信用の観点からも食用塩公正取引協議会による審査を受けています。
日本農林規格等に関する法律(JAS法)は食品の品質表示に関する法律ですが、食用塩については定めていませんでした。そのため、審査に合格した塩には、公正と記された「しお公正マーク」がつけられています。
なお、液体タイプの塩や、香辛料やほかの食品などを添加した塩、工業用の塩などは食用塩公正競争規約の対象外となります。香辛料などを添加した塩が除外されている理由には、業界が幅広くなり網羅できないことなどが挙げられます。※3、4

表示義務のない塩もある

食用塩公正競争規約の本来の目的は、消費者に適正な商品の情報を伝え、商品を選択するお手伝いをすることにあります。
したがって、優良と誤認されるような商品の情報を消費者に与えて販売を促進することを、塩業界が自主的に規制するルールを目標としています。※3
食品加工などに使われる業務用の塩では、消費者は個人ではなく会社なので、供給量は大きくなります。
このような場合、塩の商品説明は会社に対して十分に行われ、説明書などの資料も提供されているとみなされるため、表示義務はありません。
規約の対象は塩全体ではなく、「不特定多数の消費者に供給される小売用の塩」ということになります。※3

参考資料

※1 J-STAGE 食用塩の案税衛星ガイドラインの改定について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj1965/62/3/62_139/_pdf
※2 尾方昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社 
※3 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版 
※4 J-STAGE 食用塩の安全と安心
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/63/5/63_5_350/_pdf/-char/ja

塩の表示で書かなければいけないこと

塩の一括表示とは

販売されている塩のパッケージの裏面には、いろいろな情報が表示され、法律で定められた内容も記載されています。
なかでも、生産者や原材料などが記載された部分は「一括表示」と呼ばれ、塩の味に関わる情報が驚くほどたくさん書かれています。
「名称」という部分には、原則として塩の種類にかかわらず「食塩」か「塩」と記載されます。しかし「原材料名」を見ると、海水や岩塩、天日塩などさまざまです。※3、5

日本で製造される国産塩は、海水を主な原料としており、外国産の輸入塩には、天日塩や岩塩、湖塩などもあります。
ただし、海外からこれらの原料を輸入し、日本で溶かして再製塩する場合もあります。

ここで注意したいのが、「原産国名」という表示です。
外国産の塩はほぼ無検査で国内に入ってくるため、品質に関しては消費者の責任とされています。
原料を輸入して日本国内で精製された塩は、製造工程により検査を受けていないものもあります。
しかし、食品衛生法に基づき、保健所などにより工場の衛生検査が行われていますので、衛生面での一定の条件はクリアしていることになります。※3
衛生面でのトラブルは、塩に限らずさまざまな輸入食品で起こっています。
衛生観念や品質に関する感覚は、国によって異なる場合があることを念頭に、表示されている原産国も確認するようにしましょう。※3

製造方法も表示義務とされている

食用塩公正競争規約では、塩の製造方法も必要表示事項に定められました。
塩をつくる工程について、現在、16の用語が定められています。※3、6、7

  • 濃い海水をつくる工程【イオン膜・溶解・逆浸透膜・浸漬】※6
  • 濃い海水をつくり、塩を結晶させる工程【天日】※6
  • 塩を結晶させる工程【平釜・立釜・加熱ドラム・噴霧乾燥】※6
  • 塩の品質・性状を整える工程【乾燥・焼成・粉砕・洗浄・混合・造粒】※6
  • 岩塩や湖塩を掘り出す工程【採掘】※6

製造方法の表示においては、上記の決められた用語を工程順に記載する必要があります。
また、これ以外の用語を使わなければ説明できない工程があれば、協議会で検討した後に適切な用語を使用する場合もあります。※6

パッケージ越しに見る塩

2015年に食品表示法が施行され、栄養成分表示が義務化されました。
栄養成分表示には、必ず表示しなければならない基本5項目(熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量)があります。食塩相当量とは、含有されるナトリウムを食塩相当量で表示したものです。そのほかのミネラルについては、基本5項目の下に記載されることがあります。
栄養成分については細かい基準がありますが、「味」については自由に表現することができます。
たとえば、塩に含まれるミネラルには、それぞれ異なる味わいがあります。※3、7、8
実際に塩に含まれている成分の違いにより、甘味を感じたり酸味を感じたりと、味わいに違いが出てきます。
味の感覚は個人差があり、甘い、辛い、うまいなどの感覚は絶対的なものではありません。
そのため味に対しての表現のルールは定められておらず、自由に表現することが認められています。
使い方においても表示に決まりはなく、自由に表記できます。※3、7

購入した塩の賞味期限が分からなくて、パッケージ上で探した経験はありませんか?
塩は無機物で腐らない、細菌の繁殖もほとんど認められない、といった理由から、賞味期限は表示しなくてもよいとされています。つまり、塩については賞味期限が記載されていなくても心配する必要はありません。
ただし、小売店側から「賞味期限を表示しない商品は取り扱わない」といわれることもあり、なかには賞味期限を記載するケースもあります。※3、7
賞味期限を記載することは禁止されていませんが、あえて記載する場合には食品衛生法で定められた品質変化までの期間を化学的に求める必要があるため、実は大きな手間がかかるのです。 ※3、7

このように、パッケージから塩の情報を読み取る力を身につければ、スーパーなどに並ぶ数多くの商品から自分好みの塩をきちんと選べるようになります。
まずは、塩のパッケージをじっくりと眺めることから始めてみましょう。※3、7

参考資料

※3 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版 
※5 食用塩公正取引協議会
http://www.salt-fair.jp/explain/
※6 食用塩公正取引協議会
http://www.salt-fair.jp/term/
※7 青山志穂(著) 2016年11月発行 日本と世界の塩の図鑑 あさ出版
※8 中村丁次監修 2017年2月発行 栄養の基本がわかる図解辞典 成美堂出版

塩の表示でしてはいけないこと

「ミネラル豊富」という表示は禁止

塩は、栄養成分でいうとミネラルにあたります。
人体に必要不可欠とされる栄養素である必須ミネラルには16種類あります。そのうち、食事などから摂取する必要があるミネラルは、13種類とされています(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より)。
塩を販売するときに「ミネラル豊富」と表示をしてしまうと、全てのミネラルが十分に含まれていると誤解を与えてしまう可能性があるため、塩商品のパッケージに「ミネラル豊富」という言葉を使用することは禁止されています。※3、9
とはいえ、ミネラルの成分を特定して「豊富」と表現することは禁止されていないため、「マグネシウムが豊富」のように、健康増進法で定められた栄養成分表示に沿って成分を記載することは可能です。
「豊富」と表示できる含有量の下限は栄養素ごとに決められています。その数値を超えていなければ、強調した表示をすることはできません。※3、9

自然塩・天然塩の表示も禁止されている

塩には人工的に手を加えていない、自然のままの塩があります。
しかし、塩を販売するうえでは、「自然塩」や「天然塩」といった表記は認められていません。
そもそも自然塩や天然塩という言葉は、塩業界が宣伝用につくったもの。語感の良さや熱心な活動により、自然塩などの言葉は認知度を上げていきました。※3、9
こういった名称の塩を使うことでおいしい料理ができるかのようなレシピも出回り、販売政略としては大成功だったのですが、これに相乗りしようと企む者もたくさん現れてしまったのです。
その結果、自然塩や天然塩と書くことは「体に良い・おいしそう」といった思わせぶりな表示であるという苦情が多く寄せられる事態となりました。※3、9
これを受け、公正取引委員会や東京都が、自然・天然といった表記は使うべきではないと勧告を行い、以降は表示に使わないというルールが定められたのです。
掘り出した岩塩や湖塩などの天然物の塩は、まさに天然の塩といってもよいものであるにもかかわらず、今後も表示することはできなくなってしまいました。※3、9

健康や美容を謳う表示などの禁止

塩に限らず、健康や美容を謳った食品の販売は食品衛生法や薬機法(旧・薬事法)により禁止されています。
近年は厳しく取り締まる風潮もありますが、過去にはよほど悪質なもの以外は放置されてきました。
どの商品も、選ぶときにしっかりと表示を確認し、信用できる商品なのかを見極め、選択していくことが大切です。※3、9

塩に関していえば、食用塩公正競争規約ができてからは表示の事前審査が行われるようになり、健康や美容を謳う表示は書くことができなくなりました。
そのほかにも、事実と異なることを表示することや、他社の悪評を書くことなども禁止されています。※3、9
「特別な優れた塩」など、客観的評価がないにもかかわらずあたかも特別優れている塩であると誤認させるような表示や、定められた表示ルールを守っていないものも、審査に合格することができません。※3、9

消費者は生産者に比べ、商品に対する知識が少ないため、弱い立場にあるといえます。
このような規約には、知識の乏しい消費者が少しでも商品を選びやすくなるよう応援するといった狙いもあります。※3、9
生産者にとっては、規約によって思ったことが書けない、売りにくいといった不満があるのも事実です。
しかし、規約を守ることはデメリットばかりではなく、商品にウソがないという信用を消費者に与えることができるなど、メリットもたくさんあります。※3、9

参考資料

※3 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版 
※9 食用塩公正取引協議会
http://www.salt-fair.jp/kiyaku/

減塩食品にも表示ルールがある

減塩食品の表示

日本人の食生活では、食事から十分な塩分を摂取できているといわれています。そのため、塩分が不足することよりも、過剰に摂取していることが問題とされています。
塩は調味料をはじめ、加工食品にも多く含まれています。しかし以前は、塩の含有量の表示は義務付けられていませんでした。※10
そのため、個人レベルでは1日の食塩摂取量を把握しにくかったのです。
この問題を解決すべく、2015年に施行された食品表示法に基づき、食品表示基準が策定されました。これにより、消費者が健康的な食生活を送れるよう食品の表示ルールを定め、厳守することを義務づけました。※10

近年、スーパーなどで「減塩」や「無塩」、「塩分ゼロ」、「塩分控えめ」などと表現された商品を目にする機会も増えました。これらの表現を商品のパッケージに表示するには、食品表示基準の条件に従わなければいけません。※10

絶対表示

含まない旨の表示(無塩など):食品100gあたりのナトリウム(Na)量が5mg未満
低い旨の表示(低塩など):食品100gあたりのナトリウム(Na)量が120mg未満

相対表示

低減された旨の表示(減塩など):絶対差と相対差を満たすこと
絶対差:比較対象商品に対して、ナトリウム(Na)の低減量が100gあたり120mg以上 
相対差:比較対象商品に対して、ナトリウム(Na)低減率が25%以上

残念ながら、減塩食品には表示が適切かどうか疑わしいものも紛れています。
減塩を謳った商品において、栄養成分表示に「計算値・推定値・目安」などと書かれている場合は、注意が必要です。※10
減塩率の表示では、100gあたりで計算する必要があります。そのため、1食重量20g・食塩相当量2gの商品と1食重量10g・食塩相当量1gの製品では、減塩率は50%ではなく0%と解釈されます。
安易にパッケージの減塩率に惑わされず、栄養成分表示をよく見て減塩食品を評価することが大切です。※10

塩とナトリウムの表示の違い

塩の主成分は、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)が結合した塩化ナトリウム(NaCl)です。
以前は加工食品において「ナトリウム量」が表示とされていましたが、実際の食塩量と異なるため誤解が生じやすく、分かりにくいという問題点がありました。※2
現在の栄養成分表示では、ナトリウム量を食塩相当量に換算して表記することが義務化されました。※2、8
加工食品では、保存性を高める目的で塩が多く使われることがあります。
日頃から手にする商品は、パッケージの表示をしっかりと見て、どの程度の塩が使われているのか確認する習慣をつけましょう。※2、8

参考資料

※2 尾方昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
※8 中村丁次監修 20017年2月発行 栄養の基本がわかる図解辞典 成美堂出版 
※10 日本高血圧学会減塩委員会編 2019年5月発行 減塩のすべて-理論から実践まで 南江堂