塩の保存方法

工業用や食用など、塩は私たちの生活になじみ深い存在です。
特に食用としては、食卓塩や調味料として毎日の食事に必ずといっていいほど登場します。
毎日使うものだからこそ、安全においしく保存したいですよね。

保存のポイント

塩は常温で保管

塩は、常温で保存します。食品表示法において、「常温で保存すること以外にその保存方法に関し留意すべき事項がないもの」にあたるので、塩は保存の方法に関する表示を省略できます。したがって、パッケージに保存方法が書かれていなくても心配することはありません。
※1
では、ここでいう「常温」とは何度か、ご存知でしょうか。
日本工業規格(JIS)によると、常温とは5~35℃の範囲と定義されています。※2
ただし、塩には温度湿度の影響により固まる性質があるので、常温の範囲であっても高温多湿にならないよう注意しましょう。※3

急激な温度変化にも弱い

普段は塩を常温保存していても、一時的に冷蔵庫に入れたり、調理中だけ火気の近くに置いて使ったりした経験がある方もいるのではないでしょうか。
実は、塩は急激な温度変化に弱い食品です。※3
塩を入れた容器の周りに急激な温度変化が生じると、容器に結露が発生することがあります。結露によって塩に水分がつき、品質に影響を及ぼしてしまうと考えられています。

塩の融点は約800℃なので、例えば塩を火気の近くに置いても、水分が含まれない限り塩そのものが溶けることはありません。※4
しかし、火気の近くで温まった塩が常温に戻る際に、やはり品質に影響を及ぼすおそれがあります。
常温の範囲のなかでも、急激な温度変化をさせないように保存することも重要です。

ごみなどの混入に注意

一般社団法人日本塩工業会が定めた「食用塩の安全衛生ガイドライン」によると、塩の安全衛生基準として「異物については適切な対策により混入を防止すること」と定められています。一定の物質や細菌については安全衛生基準が決められていますが、ごみや不純物といった異物には具体的基準が示されていません。
適切な対策というのは、食用塩安全衛生基準認定工場の認定基準において詳細に記載されています。そのため、通常販売されている塩は「異物なし」と規定されますが、現実には身体に影響のない範囲の異物が多少混入してしまうケースは考えられます。したがって、複数の検査項目によって異物の混入防止に万全の体制をとっているかどうかを確認しています。※5
このように製造工程では万全のチェックをしていても、購入後の保存状態が悪いと、ゴミや虫などの異物が混入してしまい塩の品質に影響が出ることもあります。
そのため、異物が混入しないよう容器を工夫したり、置き場所に気を配ったりして保存することが大切です。

参考資料

※1 消費者庁 早わかり食品表示ガイド よりhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/pdf/jas_1606_all.pdf
※2 日本工業規格JIS 
https://kikakurui.com/z8/Z8703-1983-01.html
※3 公益社団法人塩事業センター 
https://www.shiojigyo.com/product/list/history/
※4 公益社団法人塩事業センター 色・融点・沸点・硬さhttps://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/condition.html
※5 食品塩の安全衛生ガイドライン 
http://www.sio.or.jp/pdf/guideline01.pdf

保存する場所・保存する容器

保存場所

塩は、高温多湿を避けて常温で保存する必要があります。※3
調理中に温度の上がりやすいコンロ周辺や、熱を発する炊飯器や電子レンジ、オーブンなどの家電製品の近くでは保存しないようにしましょう。
冷蔵庫に入れるのもあまりおすすめできません。冷蔵庫から出したときの温度変化で容器内に結露が生じ、塩に水分が加わって品質が変化するおそれがあるからです。※5

また、塩にはにおいを吸着しやすいという性質もあります。においが強い食品や調味料、石鹸や洗剤などの近くに保管すると、そのにおいが塩にうつり、風味に影響を及ぼすおそれがあります。※6
強いにおいのするものの近くに置かない、密閉容器に保存するといった工夫をしましょう。

保存容器

塩の保存容器には、プラスチック製や陶器製などさまざまな種類があります。
プラスチック製の容器には、実は食品の保存容器として使う際の規格が存在しています。
EU(欧州連合)では、食品と接触することを意図するプラスチック製材料および製品に関する欧州委員会規則(EU)2020/1245を定めています。(EU)2020/1245は、これまで適用されていた(EU)No10/2011を改正し、同規則によって定められていた内容をさらに厳格にしたものです。プラスチック製品の材料や、製造に使用することができる物質のリストを定めています。
このようなリストを定めている国は多く、日本においても食品衛生法のネガティブリストや業界団体による自主規制によって、安全性の高いプラスチック製品が製造されてきました。2020年6月よりポジティブリスト制度が導入されたことで、諸外国との整合性確保や、特に輸入品の安全確保が図れるようになりました。※7、※8
なお、再生プラスチックを使用してつくられる容器については、厚生労働省がガイドラインを示しています※9

また、塩を陶器製の容器に入れて保存する場合には、鉛を含有しない製品を選びましょう。※10
具体的には、容器と蓋の内側に安全な釉薬が使われているものか、内側または全体が素焼きでつくられているものを選ぶとよいでしょう。※10
陶器の表面に色をつけたり線や絵を描いたりするための薬剤を釉薬(ゆうやく)といいます。かつては規制が無かったため、現在よりも多くの鉛が含まれた釉薬を使った食器や容器がありました。鉛を含む釉薬を「食器として使用する陶器」に使用すると、釉薬に塩が長時間触れることで鉛が溶け出し、鉛中毒になるおそれがあります。装飾品として使用する陶器であれば問題ありませんが、食器としては使用しないようにしましょう。※10
現在の国産の陶器には厳しい規制があるため問題はありませんが、海外製の陶器などには、日本で規制されているよりも多い鉛が含まれている場合があります。

塩の保存容器については、プラスチック製・陶器製・ガラス製など、どれにしなければならないというルールはありません。ただし、金属製の容器については錆が生じてしまうため、塩の保存には向いていないということを覚えておきましょう。※6

塩を販売する際に使われる包装資材についても同様で、食品衛生法に準拠していればどんな資材を使用してもよいことになっています。※9
実際、店頭で売られている塩は紙袋やビニール袋のほか、プラスチック製容器に入っているものなどさまざまです。
塩そのものの選び方だけではなく、それを保存する保存容器の選び方も大切です。
当然ながら、塩を保存する保存容器は、常に清潔でキレイなものを使用するようにしましょう。

参考資料

※5 食品塩の安全衛生ガイドライン 
http://www.sio.or.jp/pdf/guideline01.pdf
※6 公益社団法人塩事業センター 塩の保存について
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/preservation.html
※7 内閣府 食品安全委員会 食品安全関係情報詳細 資料管理ID syu05490300305
http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05490300305
※8 独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所
http://www.iph.osaka.jp/s011/20191028184452.html
※9 厚生労働省 [食安発0427第7号]食品用器具及び容器包装における再生紙の使用に関する指針(ガイドライン)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/pura.pdf
※10 厚生労働省 器具・容器包装及び玩具の規格基準改正の背景-鉛及びカドミウム-
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/081209-1b.pdf

固まったときの対処

塩はなぜ固まるか

塩はなぜ固まってしまうのか、まずはそのメカニズムを知りましょう。

塩が固まるのは、小さな結晶同士がくっついて固まるからです。この状態を「固結」といいます。
塩には、相対湿度75%以上で水分を吸い込む「吸湿」という性質と、75%以下で結晶の周りについている水分を空気中に出す「放湿」という性質があります。※11
相対湿度が75%以上となると空気中の水分を吸収し、結晶表面に付着する水分量が増加します。付着した水分によってさらに塩の表面が溶け、周囲にあるほかの塩の結晶とくっつきやすくなります。
さらに、相対湿度が75%以下となると水分が空気中に放湿され、塩の結晶表面にある飽和塩水から水分が蒸発して乾燥していきます。結晶表面に微小の塩結晶ができ、結晶同士をくっつけて固めてしまいます。
これによって塩の塊ができてしまうのです。※11

固まったらどうすればいい?

空気中の湿度は、1日の間でも微妙に変化します。
そのため、塩の表面では吸湿と放湿が繰り返され、塩の結晶同士が微小の塩でつながった状態になっていき、どんどん塩の塊を形成していきます。湿度が下がり結晶につく水分量が減ったからといって、サラサラな状態に戻るわけではありません。

塩は一度固まったら元のサラサラした状態に戻すことはできないとされています。
固まった塩は砕きながら使っていくのが最も手軽な解決策です。※11
塩が固まったときの対処法を模索するより、できるだけ塩が固まらないよう保存することを考えるのがベターです。※11

固まらないように予防する方法

塩を固めないようにするには、塩の正しい保存方法を守るのがもっとも効率がよいです。
繰り返しになりますが、塩は高温多湿を避け、常温で保存しましょう。※6
蓋のある密閉容器で保存するのも、空気中の水分を吸湿させない良い方法といえます。

日本で売られている塩には、固まらないようにするための「固結防止剤」が添加物として加えられている商品もあります。
塩に添加されている固結防止剤には、次のようなものがあります。

  • 塩の結晶同士の結合を防ぐクエン酸鉄アンモニウム
  • 塩に変わって吸湿し、塩そのものが吸湿をすることを防ぐ無水リン酸ソーダや無水硫酸マグネシウム
  • 塩の吸湿及び放湿を防ぐ塩化マグネシウムや塩化カルシウム
  • 塩の結晶同士がくっつくことを防ぎつつ、塩をサラサラの状態に保つ炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素  ※11

いずれも食品添加物として日本での使用が認められている成分です。塩の成分表示にこれらの成分が記載されていれば、含有されていない塩と比較して固まりにくいといえます。
しっかりと保存しているのに塩が固まって困っている、塩を固まらせずに使いきりたいと考えている方は、これらの添加物が含まれている塩を使うとよいでしょう。

参考資料

※6 公益財団法人塩事業センター 塩百科 塩の保存について
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/preservation.html
※11 公益財団法人塩事業センター 塩百科 食用塩の品質
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality-shape-shokuyoen.html

賞味期限

塩に賞味期限はあるか

塩は、長年にわたり塩専売制度に基づき国が管理していたため、塩についての表記基準、品質基準、安全衛生基準などの公的基準が存在していませんでした。※12
現在私たちが使用している塩の品質や安全は、日本塩工業会が2000年に作成した「食用塩の安全衛生ガイドライン」で守られています。
また、食品にはそれぞれ「賞味期限」が決められていますが、実は塩には賞味期限がありません。
2015年に国によって定められた「食品表示基準」において、賞味期限を省略できる食物に分類されています。なお、賞味期限を省略できる食品はほかにも、氷、水、砂糖、でんぷん、酒類などがあります。※13

賞味期限付きの塩もある

塩は、食品表示法や食品表示基準において、賞味期限や保存方法の表示を省略できる食品に分類されています。ただし、原材料の一部に有機物を使用している場合は、賞味期限が設定されています。※12
賞味期限とは、製品として期待されるすべての品質特性を十分保持しうると認められる期限のこと。それがないということは、正しく保存さえすれば、塩は品質を損なわずに使い続けることができるということです。
つまり、塩自体はいつまでも摂取できる食品といえます。
ただし、保存方法によっては固結が生じる場合もあるので、できるだけ早く使いきるよう意識しましょう。※5

参考資料

※5 食品塩の安全衛生ガイドライン 
http://www.sio.or.jp/pdf/guideline01.pdf
※12 公益社団法人塩事業センター ブランドヒストリー
https://www.shiojigyo.com/product/list/history/
※13 平成二十七年内閣府令第十号 食品表示基準
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=427M60000002010
※14 日本貿易振興機構JETRO 塩の輸入手続き:日本
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04M-010766.html