塩分コントロールの必要性

塩分は、ヒトの生命を維持する上で必須となる浸透圧制御にも関わっています。私たちにとって、塩分は必要不可欠な栄養成分であることは間違いありません。その一方で、近年では塩分は生活習慣病などさまざまな疾患の原因になるとして、塩分コントロールが推奨されています。しかし、単に「塩分を控えた食事」を続けるのは難しいと思う方も多いでしょう。今回は塩分コントロールの必要性とともに、そのコツや新しい考え方についてお伝えします。

減塩だけでは難しい

太古の時代、生命体が陸上で生きていくためには塩分(ナトリウム)を体内に留めおく必要があり、生命維持における最重要事項でした。人類が石器を用いて狩猟や採集をしていた時代、1日に摂取していた食塩はわずか1~2g以下だったことから、体外に失われないようにすることは必須であったといえます。※1

一方、現在では、食塩の過剰摂取は高血圧や生活習慣病の悪化を要因とした心疾患や脳卒中などの重篤な疾患を引き起こす原因となることもよく知られています。これは、食塩の過剰摂取によって体内のナトリウム量と水分量のバランスが乱れ、それを調整するために血液量が増えることで血圧が高くなるためです。持続的な高血圧状態は動脈硬化を進行させ、やがて心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。さらに、高血圧は心臓に負担をかけている状態であるため、心肥大から心不全につながることもあるといいます。※2

日本人の食塩摂取量

現代日本に生きる日本人の、毎日の食塩摂取量はどれくらいなのでしょうか。令和元年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の食塩摂取量の平均値は10.1g(男性10.9g、女性9.3g)と報告されています。※3

過去10年ほどは減少傾向にあるとはいえ、日本人の食塩摂取量は世界的に見てもかなり多い傾向にあります。欧米では、ヨーロッパ高血圧学会(ESH)のガイドラインが2023年に発表され、血圧に異常のない一般の人の食塩摂取量は1日5g以下とされています。また、2012年のWHO(世界保健機関)のガイドラインでも、成人の食塩摂取量は1日5g未満が目標値となっています。今後、目標値をさらに厳しくする動きもみられています。※2

日本では、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると成人の1日あたりの食塩摂取量の目標値は男性7.5g未満、女性6.5g未満と設定されています。また、高血圧治療ガイドラインでは、世界基準と同様に高血圧の人も一般の人も6g未満を推奨しています。※4、5

卓上の調味料や加齢に伴う味覚の低下が減塩を阻む

高血圧などの生活習慣病を発症すると、医師からは減塩など食生活を見直すよう指導されることも少なくありません。病気を悪化させず改善するためには、食事にある程度の制限を加える「食事療法」は非常に重要です。調理を通して塩分量の調整ができる場合は、味付けや調理方法の工夫次第といえますが、食卓に出された食事に各自で醤油や塩を足し、味を調整するのが習慣となっているご家庭では注意が必要です。

また、加齢に伴い、味を感じるセンサーである「味蕾」の機能が低下します。そのため、無意識に味付けがしょっぱいものになったり、濃い味付けの外食に慣れてしまったりすることもあります。このように、「減塩」を守らなければならない状況になっても、それまでの食習慣を大きく変えることは難しいものなのです。

参考資料

※1 特定非営利活動法人 日本高血圧学会 食塩の知識
https://www.jpnsh.jp/general_salt_02.html
※2 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 減塩食について
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/low-salt/
※3 厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査 結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
※4 厚生労働省 e-ヘルスネット ナトリウム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-024.html
※5 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(全文)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

カリウムによる塩分コントロール

カリウムは、野菜や果物に多く含まれるミネラルのひとつです。カリウムはナトリウムと同様に体液の浸透圧制御に関わっており、そのバランスを一定に保っているほか、酸・塩基平衡の維持、神経や筋肉の刺激伝達などの役割を担っています。※5

摂取されたカリウムは小腸で吸収され全身に運ばれますが、そのほとんどは腎臓で排出されます。カリウムには、ナトリウムの再吸収を抑えて尿中への排泄を促し、血圧を下げる作用があります。そのため、カリウムを適切に摂取することで体内のナトリウム量をコントロールすることができます。

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、生活習慣病の予防と目的とする場合、成人1人1日あたりのカリウム摂取の目標量は男性で3,000mg以上、女性で2,600mg以上としています。また、WHO(世界保健機関)のガイドラインでは男女とも1日あたり3,510mgが推奨されています。※5、6

ホウレンソウやバナナなど、カリウムを多く含む食品を普段の食事に取り入れることで、体内のナトリウム量をコントロールし減塩の効果を得ることができます。

カリウムによる塩分コントロールが難しい人もいる

ただし、カリウムの過剰摂取が体に望ましくない影響を及ぼすこともあります。注意すべきは、腎機能が低下している人や腎臓病の人です。

前述のとおり、摂取されたカリウムの大部分は腎臓で排出されます。しかし、腎機能が低下している人や腎臓病の人がカリウムを過剰に摂取すると、カリウムがうまく排出できず高カリウム血症となり、心疾患を引き起こすことがあるのです。

例えば、「減塩しお」として食塩の代替品として一般に利用されているものには、塩化カリウムが含まれているため、人工透析を行っている人や腎機能が低下している人は避けたほうがよいでしょう。

参考資料

※5 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(全文)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
※6 厚生労働省 e-ヘルスネット カリウム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-005.html

減塩ではなく塩分の吸収を抑えるには

胃や腸など消化管で吸収された栄養素は血液によって運ばれ、消費しきれなかったものは腎臓で濾過されるようになっています。つまり、体内に入ったもののうち過剰な分は不要物として腎臓で排出されるのです。体にとって必要な栄養素も、過剰に摂取してしまうと腎臓に負担をかけることになります。

しかし、消化管において吸収される分を減らすことができれば、その先にある血管や腎臓に負担をかけることはありません。単純に食塩摂取量を減らす「減塩」のみならず、「塩分の吸収を抑える」という発想によって血管や腎臓を守ることができるのです。

ナトリウムの消化吸収を抑えるはたらきをもつ成分として注目されているのが、「アルギン酸類」です。海藻由来の食物繊維のひとつであるアルギン酸類には、ナトリウムを吸着するはたらきがあります。このメカニズムを利用することでナトリウムの吸収を抑え、体内の塩分をコントロールすることができます。

アルギン酸類による塩分コントロールについては、次の記事で詳しくご紹介します。