塩分コントロール技術とは

塩分の取りすぎは心疾患や脳卒中などの重篤な疾患を引き起こすなど、現代人の体に大きな負担をかけていることが分かっています。これまでに塩分の取り過ぎ対策として、「減塩」や「野菜や果物によるカリウムの摂取」などが取り組まれ、多くの方々の健康に貢献してきました。しかし、これらの対策にもメリットとデメリットがあります。近年、これらの対策に加えて、塩分摂り過ぎ対策として『塩分コントロール技術』という新しい概念が報告されるようになってきました。この新たな塩分対策『塩分コントロール技術』とはどのようなものなのでしょうか?ヒトにおける塩分の吸収・代謝の仕組みとそれぞれの塩分対策のメカニズムについて紹介します。

塩の吸収と代謝の仕組み

まず、食事や飲み物などで摂取した塩分はどのようにからだに入ってきて、吸収され、代謝・排泄されているのでしょうか。

食事などで口から摂取した塩分(ナトリウム)は胃で消化され、そのほとんど(約95%~100%)はナトリウムイオンとして腸で吸収され、血液中に取り込まれます。血液中に取り込まれたナトリウムの90%~95%が腎臓で調整され尿として排出されます。その他便として5%未満、汗やその他の体液として1~2%排出されますが、摂取した塩分(ナトリウム)のほとんどは腎臓の働きによって体外に排出されていることが分かります。塩分過多が続いてしまうと腎臓に負担がかかりやすくなり高血圧や脳卒中、心臓病のリスクが高くなることが分かっています。

腎臓のはたらきと潜んだ危険性

ここで、腎臓のはたらきについてもっと詳しくみてみましょう。腎臓には、大きく分けて次の3つのはたらきがあります。

1. 老廃物の排泄
2. 水分、電解質、酸・アルカリバランスの調節
3. ホルモン分泌

さらに、腎臓は1分間に1,200mLもの大量に流れ込む血液の状態を絶えずチェックするというセンサーのようなはたらきもしており、排出や再吸収などによって体を一定の状態に保っています。

腎臓に流れ込む血液のうち、約半量は血漿として糸球体を通過し、濾過される尿(原尿)は1日あたりで150Lもの量になります。しかし、最終的に尿として排泄されるのは1日に1.5L程度なので、99%は再吸収されているということです。原尿には老廃物のほか、ナトリウムやカリウム、マグネシウム、リンなどのミネラル、ブドウ糖やアミノ酸などの栄養素も含まれています。腎臓は原尿の中からこれらの成分を再吸収し、尿として1%に凝縮することで老廃物を排泄します。その中には、不要になったナトリウムやカリウムも含まれています。※1

このように、老廃物や過剰摂取した水分やナトリウムなどを排泄し、体液の恒常性を保っている腎臓ですが、そのはたらきが低下してしまうと、「不要物の排出」が行われにくくなります。カリウムは通常、腎臓のはたらきにより尿として排出されますが、うまく排出されないと体内に残り、蓄積されてしまうおそれがあるのです。カリウムが正常範囲を超えて持続的に体内に存在すると、高カリウム血症を引き起こす可能性が高まり、心疾患の要因となりえます。

「塩分コントロール技術」=身体に吸収される塩分を制御する技術

近年、塩分取りすぎ対策として「塩分コントロール技術」という新しい概念が報告されるようになってきました。新たな塩分対策として期待される「塩分コントロール技術」とは、どういったものなのでしょうか。

「塩分コントロール技術」とは

「塩分コントロール技術」とは食事で摂取した塩分を胃や腸などの消化器官で有効成分が吸着することで、消化器官から血液中へ塩分が吸収されるのを防ぎ、有効成分と塩分が結合したまま体外へ排出させるという新しい技術です。この技術を応用することで食事で摂取しすぎてしまった塩分を「なかったことに」できるため、普段の食事はもちろん、外食時にも罪悪感なく食事を楽しむことができます。減塩とは異なるメカニズムを持つ「塩分コントロール技術」によってこれまで薄味が苦手で減塩食を敬遠していた人も、味の好みや食生活を変えることなく健康のための取組みが出来るとして注目されています。

「塩分コントロール技術」を実現するアルギン酸類とは

「塩分コントロール技術」を実現できるとして近年注目されている成分に「アルギン酸カルシウムとアルギン酸アンモニウム」があります。(総称してアルギン酸類と呼ばれます。)アルギン酸類は食物繊維のひとつであり、ワカメやコンブなど海藻由来の天然多糖類です。海藻特有のぬめり成分であり、増粘、乳化、食感等の質改善など、さまざまな用途で日常的に食品に利用されています。国連機関であるJECFA(FAO/WHO 合同食品添加物専門委員会)の安全性評価によると、毎日摂取しても健康に危害をもたらさない安全な物質として、一日許容摂取量(ADI)は「特定しない」と評価されています。※2

アルギン酸類は、構造としてカルボキシル基(-COO-)をもつため、陽イオンと簡単に結びつくことができます。

食塩つまり塩化ナトリウム(NaCl)を多く含む食事と一緒にアルギン酸類を摂取することで、体内の消化酵素によって結合していたカルシウム(Ca)、アンモニウム(NH4)が分離し、ナトリウムイオン(Na+)の一部と結びつきます。これをイオン交換反応といいます。つまり、アルギン酸類には選択的にナトリウム(Na)を吸着するという大きな特徴があるのです。

さらに、前述のとおりアルギン酸類は食物繊維のひとつなので、ナトリウムを吸着した後に血管で吸収されたり消化器官で消化されたりすることなく便として体外に排泄されるという特徴もあります。そのため、アルギン酸類の摂取によって塩分の吸収が抑えられ体外に排出ができるのです。

こうしたアルギン酸類のもつ性質を利用し、食べてしまった塩分を便として体外に排出するのが、塩分の摂りすぎを抑える新しい仕組み「塩分コントロール技術」です。

参考資料

※1 一般社団法人日本腎臓学会 腎臓の病気について調べる1.腎臓の構造と働き
https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms01.php

※2 公益財団法人日本食品化学研究振興財団 指定添加物(規則別表一)のJECFAによる安全性評価
https://www.ffcr.or.jp/tenka/secure/jecfa.html

減塩とは違う「塩分コントロール技術」のメリット

塩分をケアする方法として、まずイメージされるのは、口から摂取する塩を減らす方法=減塩でしょう。実際に、減塩を含む食事療法や健康管理のための減塩を実践されている方も多いと思います。

しかし、「塩分コントロールの必要性」の記事でお伝えしたとおり、ご家庭での調味方法や加齢による味蕾の機能低下、外食や加工食品の多用などによって、減塩に取り組みにくいこともあります。減塩食には味わいの面で課題もあり、減塩生活を継続するうえで課題となっています。

塩分対策として、ナトリウム排出機能をもつカリウムや水分を積極的に摂取する方法もあります。カリウムは通常、腎臓のはたらきにより尿として排出されますが、腎機能が低下している方にとってはカリウムの多量摂取が害になる可能性があります。

アルギン酸類を使用した「塩分コントロール技術」のメリットとデメリット

アルギン酸類を使用した「塩分コントロール技術」には、主に以下の2つのメリットがあります。

メリット①腎機能へ影響を与えることなく塩分ケアができる

アルギン酸類を摂取する「塩分コントロール技術」は、カリウムを使用せずに過剰摂取したナトリウムの排出(塩分ケア)ができるため、腎機能が低下している方にとっても安心して塩分ケアができます。

メリット②外食やお惣菜など、通常では減塩しにくい食事でも塩分ケアができる

減塩とは異なり、食事の際にアルギン酸類を摂取することで取りすぎたナトリウムを排出できます。そのため塩分量の多い食事をしても「塩分コントロール技術」によって塩分の吸収を抑えることが出来ます。また、日頃から塩分量の少ない食事を心がけている方にとっては、急な外食の際にも塩分ケアができる心強い味方になります。

また「塩分コントロール技術」には以下のようなデメリットもあります。

デメリット①アルギン酸類を含んだ食事をとる必要がある

食事と一緒にアルギン酸類を摂取しなければならないため人によっては手間だと感じる方もいらっしゃることでしょう。簡単にアルギン酸類を摂取する方法としてはサプリメントで摂取する方法もございます。

デメリット②経済的負担となる場合がある

単に塩を減らし薄味にすることで「減塩」をした時と比較して、「塩分コントロール技術」の場合はアルギン酸類を摂取する必要があるため、サプリメント代など出費が増えてしまう可能性があります。お得な定期コースなどを活用することで、経済的負担を少しでも抑えることが出来ます。

減塩と塩分コントロールはどちらも大切

アルギン酸類摂取による塩分コントロールの効果についての臨床試験も行われています。アルギン酸類を食事と共に摂取することで、ナトリウムの吸収を抑制したことが示されています。※3

こちらの臨床試験の詳細は、次の記事「塩分コントロール技術の効果」でご紹介します。

食生活改善に取り組まれている方にとって、体内に取り入れる塩分の量自体を減らす「減塩」が重要なことは言うまでもなく、塩分の取りすぎが高血圧や脳卒中、心臓病のリスクを高めることは広く知られています。

「減塩」と「塩分コントロール技術」は異なるもののように感じるかもしれませんが、どちらも健康な体を維持していくための手段であり、どちらが優れていると比較するものではありません。普段の食事では「減塩」に取り組み、外食や飲み会の際には「塩分コントロール技術」に取り組む、というようにどちらかだけではなくどちらも併用して健康に取り組むことも可能です。

「減塩」と「塩分コントロール技術」はどちらも大切なことであるといえるでしょう。

参考資料

※3 増田隆昌. “アルギン酸塩類含有サプリメント摂取によるナトリウム吸収抑制効果―プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験―.” 薬理と治療 50.10 (2022): 1829-1836.