塩分コントロール技術は比較的新しい考え方ではありますが、近年、実際に私たちヒトの体の中でアルギン酸類がどのような働きをするのかについてさまざまな実験や研究が行われています。今回は、アルギン酸類を用いた塩分コントロール技術に関する臨床試験や実証実験を2つご紹介し、アルギン酸類のもつ可能性について解説します。
目次
アルギン酸類摂取による尿中ナトリウム変化量のヒト臨床試験
アルギン酸塩類を含むサプリメントを摂取したときの塩分吸収抑制効果について評価した臨床試験があります。※1
まず、1日当たり10.5gの食塩摂取量に設定した規定食を、1日3食、計7日間提供しました。4日目からは夕食前に試験食品を3錠摂取し、24時間蓄尿を行い、主要項目として、尿中ナトリウム変化量の測定を行いました(有効性解析対象者23名)。
試験食品摂取期間中の尿中ナトリウム変化量の平均値は、次のように示されました。
上記の図のように、サプリメント群はプラセボ群と比較して尿中ナトリウム量が減少する傾向がみられ、4日目には有意に低値を示しています。サプリメント群では尿中ナトリウム量が減少したことから、体内に吸収されるナトリウム量が減少したということが分かります。いつも通りの食事で塩分を摂取しても、アルギン酸類を摂取することにより、体内に取り込まれるナトリウムの吸収が抑えられる可能性が示されました。※1
24時間蓄尿検査について
この研究で利用された24時間蓄尿検査による研究方法について補足します。
塩分(ナトリウム)は、小腸や大腸で必要栄養素として吸収され、血液や体液中を循環した後、腎臓で再吸収され、最終的に尿として排出されます。実際にヒトの体内では、排出された尿中ナトリウム量と摂取したナトリウムは90%以上の収支が得られています。
つまり、口から摂取した食塩の量は尿に排出される量(尿中ナトリウム量)に反映され、その量はほとんど同じ量であると仮定されるということです。この仮定に基づき、24時間蓄尿検査では24時間の間に蓄えられたナトリウム量から、身体へ吸収されたナトリウム量を推定することができます。臨床現場では食塩摂取量を推定する標準的な方法とされており、特に腎臓や高血圧などの専門施設の多くは畜尿による検査を実施しています。※2
参考資料
※1 増田隆昌 ほか アルギン酸塩類含有サプリメントによる最大限の吸収抑制効果―プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験― 薬理と治療 50(10) p.1829-1836 (2022)
https://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50100/1829
※2 瀬川裕佳, 菅野義彦 腎疾患と食塩 日本腎臓学会誌 61(5) p.574‒578 (2019)
https://jsn.or.jp/journal/document/61_5/574-578_v2.pdf
アルギン酸塩類配合サプリメント摂取による健康意識の変化
成人を対象にアルギン酸塩類を含むサプリメントを7日間摂取してもらい、塩分吸着効果や期間中の食生活や健康意識について評価した研究も行われています。この試験では尿中ナトリウム排出量(一日食塩摂取量)や血圧の変化も評価したほか、被験者に対して食生活改善に関する意識調査も同時に行われました。※3-4
試験の結果、サプリメントの摂取によって収縮期および拡張期血圧が有意に低下しました。
また、健康意識についても試験前の回答では半数以上の約62%の被験者が塩分に気をつけていないと回答していましたが、試験後の回答では約80%の被験者が塩分に気をつけるようになったと回答しており、食生活改善への関心度も高くなっています。食事や栄養素を可視化した試験を通して、食生活や健康意識が改善する可能性が示唆されています。
参考資料
※3 排塩サプリメント継続摂取による排塩効果および食習慣における各種栄養素や食塩摂取量の把握による行動変容に関する研究(UMIN000049540)
※4 令和4年度UXプロジェクト,日頃の食生活における塩分モニタリング・ケアを通じて好きな食生活を我慢せず健康を目指すプロジェクト,トイメディカル株式会社
https://ux-project.jp/project/%e6%97%a5%e9%a0%83%e3%81%ae%e9%a3%9f%e7%94%9f%e6%b4%bb%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e5%a1%a9%e5%88%86%e3%83%a2%e3%83%8b%e3%82%bf%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%82%b0%e3%83%bb%e3%82%b1%e3%82%a2%e3%82%92/
アルギン酸類を活用した塩分コントロール技術の進展に期待
塩分コントロール技術に使用されている「アルギン酸類」はまだなじみのない存在かもしれませんが、食事に含まれる塩分の吸収を抑えてくれる効果が注目されはじめています。
現在、アルギン酸類の特性を活かしたサプリメントや、塩分コントロール技術へのさらなる研究開発が進められています。塩分コントロール技術による塩分吸収抑制の利点は、食事の内容に制限されず、また食事の風味を損なうことなく、塩分摂取を効果的にコントロールできる点にあります。例えば、外食やお惣菜を食べる機会が多く、これまではなかなか塩分を控えることが難しかった方に対しても、塩分コントロール技術によって各々の生活スタイルに合わせた健康的な食生活のサポートができると期待されています。
また、家庭内でも特定の方だけが減塩が必要というケースも少なくありません。その場合、従来の減塩方法では全員分の食事を塩分を控えた内容にしたり、その方向けに別メニューを用意したりと苦労が多いものです。塩分コントロール技術を応用し、減塩が必要な方だけがアルギン酸類を摂取することで、家族全員が同じ食事を食べることができるようになります。さらに研究開発が進めば、口内ではしっかりと塩味を感じつつも、体内には塩分が吸収されることがないような食品が販売される日も近いかもしれません。
次項では、塩分をコントロールするのに最適なアルギン酸類を効果的に摂取するための方法についてお伝えします。