塩の基礎知識

私たちの食生活に、とても身近な存在である塩。自宅のキッチンや飲食店の調味料入れなど、どこにでも「塩」を見かけるのではないでしょうか。
食べるときはもちろん、調理をするときにも活躍します。下ごしらえに使ったり、肉や魚に下味をつけたり、調理の最後に味を調えたり……
そんな身近な塩のこと、どれくらい知っていますか?
塩は何からできていて、何のために存在しているのか、その秘密を探ってみましょう。

塩とは

化学的にみると、塩は3種類ある

一般的に「塩」というと、食品としての塩(しお)を想像するかもしれません。しかし化学の分野では、塩は「しお」ではなく「えん」と読みます。
塩(えん)とは、「酸」に含まれている1つ以上の水素イオンを、ほかの陽イオン(金属イオンやアンモニウムイオン)で置き換えたものの総称です。
ややこしいですが、たとえば塩酸(HCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)からは、塩化ナトリウム(NaCl)という物質と水(H2O)ができます。
塩酸にあった水素イオン(H)が、ナトリウムイオン(Na)と置き換えられています。 ※1
この化学式は、見覚えのある人も多いのではないでしょうか。

さらに塩(えん)は、正塩(せいえん)、酸性塩、塩基性塩の3つに分類することができます。

  • 正塩:化学構造の中に水素イオン(H)や水酸化イオン(OH)を含まない塩で、酸性でもアルカリ性でもない
  • 酸性塩:化学構造の中に水素イオン(H)を含む塩で、強い酸性を示す
  • 塩基性塩:化学構造の中に水酸化イオン(OH)を含む塩で、強いアルカリ性を示す

食品としての塩

一般的に、塩(しお)の中に最も多く含まれる成分は、塩化ナトリウム(NaCl)です。
塩100g中、おおよそ90g以上含まれているものが多いようです。 ※2
塩の中にはほかにも、カルシウムやマグネシウム、カリウムなども含まれていますが、塩化ナトリウム(NaCl)に比べると含有量は少なくなっています。 ※2、3

自然の中の塩

「塩辛い」「しょっぱい」と表現される塩味。人間の味覚のひとつである塩味を感じさせる物質は、現在のところ塩化ナトリウム(NaCl)しかないとされています。※4
海水が塩辛いと感じるのは、さまざまな塩(えん)が含まれているためです。

海水中の元素は81種類が確認されていますが、その中には塩化ナトリウム(NaCl)のほか、塩化マグネシウム(MgCl2)や硫酸カルシウム(CaSO4)などが含まれています。 ※4

海水100gのうち、全塩分量はおよそ3.5%を占めており、そのうちの78%が塩化ナトリウム(NaCl)です。計算すると、海ですくった海水100g中には、およそ2.8gの塩化ナトリウム(NaCl)が含まれていることになります。これが海水の「塩辛さ」の理由になっています。 ※5

私たちの体の中にも、塩(えん)は多く存在しています。
塩化ナトリウム(NaCl)は体の中に入ると、ナトリウムイオン(Na)と塩化物イオン(Cl)に分かれます。血液や胃の粘液、骨などの中にもナトリウムイオン(Na)と塩化物イオン(Cl)が存在しており、体重70kgの人でおよそ200gの塩(えん)が含まれているとされています。
汗をかいた後、白い結晶が皮膚などに付くことがあります。
これは、汗の中に含まれるナトリウムイオン(Na)と塩化物イオン(Cl)が再び結合して塩の結晶をつくるためです。 ※5

参考資料

※1 大阪教育大学 塩の性質
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~hiroakio/2008/08ko-027.html
※2 公益財団法人塩事業センター 2019年4月発行 市販食用塩データブック2019年版 成山堂書店
※3 食品保存と生活研究会編集 おもしろサイエンス塩と砂糖と食品保存の科学 2014年3月発行 日刊工業新聞社
※4 橋本壽夫(著) 塩の事典 2009年2月発行 東京堂出版
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) シリーズ食品の科学 塩の科学 2018年4月第6刷発行 朝倉書店

塩の構造・形状

塩の構造

私たちが普段よく目にする塩は、塩化ナトリウム(NaCl)がたくさん集まって結晶になったものです。 ※4、5
水に溶かすと、透明な液体のまま塩辛い味になります。
結晶のときは塩化ナトリウム(NaCl)として存在していますが、水に溶かすと結晶が分解され、ナトリウムイオン(Na)と塩化物イオン(Cl)になります。
塩の結晶はもともと、ナトリウムイオン(Na)と塩化物イオン(Cl)が1つずつ結合した分子が、規則正しく並んでいます。その結合が外れやすいのが特徴です。 ※4、5

塩の形状

塩の結晶を顕微鏡でみると、基本的にはサイコロのような正六面体をしています。
しかし、結晶となって成長するときの条件により、さまざまな形になることがあります。 ※4、5

正六面体(サイコロ)

もっとも一般的な形状です。
現在、日本で流通している塩のうち、「立釜」を用いた製法で結晶化させた塩に多くみられます。
立釜を使うと、濾過海水が効率よく循環され、海水中で結晶がつくられるため、サイコロのような形で結晶が成長します。 ※2、4、5

トレミー

トレミーとは、ピラミッドのような四角錐の形状です。
海水を攪拌せずに煮詰めるなど、海水表面で結晶化させることで、ピラミッドが逆さまになったような形で成長します。
日本でも、海水を循環させずに精製する「平釜」を用いた製法で、トレミータイプの塩がつくられています。 ※2、4、5

フレーク

フレークとは、ウロコのような薄い板状の結晶をいいます。
トレミーと同様、「平釜」を使い、海水を攪拌せずに海水表面で結晶化させることでつくられます。 ※2、4、5

粉砕塩

一つひとつの結晶が不ぞろいな形をしており、所々に鋭い結晶角がみられます。
海外でつくられた塩に多く、岩塩(がんえん)を砕いたものや、天日干しによって精製した大粒の結晶を粉砕したものにみられる形状です。 ※4、5

そのほかの形状

正六面体の角が削られた「八面体」や「十四面体」、角がとれて丸くなった「球状」のもの、雪の結晶のような形をした「樹枝状」のもの、大小の結晶が集まってできた「凝集塩」などがあります。
塩を精製するときに、海水の中に媒晶剤(ばいしょうざい)と呼ばれる物質を入れることがあります。
媒晶剤の種類によって、球状や樹枝状などができます。 ※4、5

参考資料

※2 公益財団法人塩事業センター 2019年4月発行 市販食用塩データブック2019年版 成山堂書店
※4 橋本壽夫(著) 塩の事典 2009年2月発行 東京堂出版
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) シリーズ食品の科学 塩の科学 2018年4月第6刷発行 朝倉書店

塩の性質

水に溶けた塩

塩は、水に溶けやすい物質です。水に溶けた状態では、陽イオンであるナトリウムイオン(Na+)と、陰イオンである塩化物イオン(Cl-)に分かれて水の中を漂っています。
水はH2O、水素と酸素の化合物です。水の中に入ると、塩化ナトリウム(NaCl)に含まれるナトリウムイオン(Na+)は酸素のもつ陰イオンに引かれ、塩化物イオン(Cl-)は水素のもつ陽イオンに引かれて、NaとClの結合が引き離されます。 ※6

ここで、塩と砂糖の「水への溶けやすさ」を比較してみましょう。

アイスコーヒーを思い浮かべてください。温度の低いアイスコーヒーには、濃い砂糖水であるシロップは溶けますが、砂糖そのものはなかなか溶けません。温度の高いホットコーヒーであれば、砂糖でも簡単に溶けます。
20℃の水に対し、砂糖は約200g溶けます。100℃のお湯になると、2倍以上の約476gも溶けます。このように、砂糖には「水よりもお湯の方が溶けやすい」という性質があります。 ※7

一方、塩は水の温度が変化しても、溶けやすさが大きく変わらないのが特徴です。
20℃の水100gに対し、塩は約26g溶けますが、80℃まで温度が上昇しても溶けるのは約28gと、ほとんど変わりません。
そのため、冷たいスイカやトマトに塩を少量ふりかけてもすぐに溶けます。量が多いと、お湯の中に入れてもなかなか溶けません。 ※3、8

塩の結晶は重くて硬い

結晶となっている塩は、水よりも比重が重い物質です。
水(4℃)は1立方センチメートルで1g。塩は同じ1立方センチメートルで、2.16gあります。
また、塩の結晶はその形状によって、同じ容量でも重さに違いがあります。
小さじ1杯で比較すると、乾燥してサラサラしたタイプだと約6g、やや湿り気のあるしっとりしたタイプでは約5gと、1.2倍くらいの差があります。 ※9

食品としても身近な塩ですが、その結晶は意外と硬いことをご存じですか?
塩の硬さは、鉱物の硬さを表すモース硬度でいうと2.0~2.5程度といわれています。
これは、建築資材や彫刻の材料として使われる石膏と同じくらいの硬さで、指の爪で何とか傷をつけられる程度です。
ダイヤモンドやトパーズなどの硬い鉱石には及びませんが、滑石(かっせき)と呼ばれるもっとも柔らかい鉱石よりも硬いということになります。 ※6

参考資料

※3 食品保存と生活研究会編集 おもしろサイエンス塩と砂糖と食品保存の科学 2014年3月発行 日刊工業新聞社
※6 公益財団法人塩事業センター 塩百科 色・融点・沸点・硬さ https://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/condition.html
※7 独立行政法人 農畜産業振興機構 【まめ知識】作ってみよう! 砂糖の結晶 https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_001083.html
※8 公益財団法人塩事業センター 塩百科 塩水のpH・塩の溶解度 https://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/brine.html
※9 公益財団法人塩事業センター 塩百科 比重 https://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/weight.html

塩の働き・役割

食用としての塩

人の味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味があります。 ※4、5
このうち、塩味を感じさせるのが塩です。
また、塩にはほかの味覚との相互作用があり、隠し味として使うことで味覚に広がりをもたせるような働きもあります。
たとえば、甘いスイカに塩をかけると甘味をより強く感じます。これは甘味と塩味を感じる仕組みに違いがあり、最初にわずかな塩味を感じた後で甘味を感じることで、甘味が強調されるからです。 ※4、5

さらに、塩には野菜や魚肉の細胞から水を引き出す「脱水作用」があります。食品に付着する一般的な微生物の細胞を破壊し繁殖を抑制することから、防腐剤として使用されることもあります。 ※4、5
味噌や醤油などの発酵過程において、塩は一般的な微生物の繁殖を抑え、発酵をすすめる微生物の働きを助けます。
そのほかにも、小麦粉に含まれるタンパク質を変性させ粘り気のあるグルテンを形成したり、魚や肉の下味として塩を使うことでうま味を閉じ込めたりするなどの働きもあります。 ※4、5

工業用としての塩

塩はナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)に分解されます。ここから水酸化ナトリウム、塩素、水素、炭酸ナトリウムなどさまざまな物質をつくり出し、それぞれの用途で使用します。 ※3、4、5、10
日常生活に近いところでは、水を浄化するときに塩が使われます。
塩を原料としてつくられた塩素には、水に含まれる微生物を死滅させる消毒効果があります。
プールの水には特徴的なにおいがありますが、これは塩素による消毒が行われているためです。 ※3、4、5、10

紙やレーヨンなどの素材はもともと木材からできていますが、材料となる木材を溶かすときにもたくさんの塩が使われます。 ※3、4、5、10
アルミ箔やアルミ缶なども、原料の鉱石であるボーキサイトを溶かすときに塩が使われています。
塩のもつ「水の分子を捉える力」を応用してつくられるのが、石鹸です。
石鹸の原料は油脂ですが、油脂からつくり出した「石鹸膠(せっけんにかわ)」に、塩化ナトリウム(NaCl)を加えると、純粋な石鹸成分だけを取り出すことができます。 ※3、4、5、10
石油からつくられたエチレンと塩からつくられた塩素を反応させてできた塩化ビニルは、ビニール製品の材料となります。
ランドセルやグローブなどの皮製品は、動物の皮を塩で保存し、なめらかにするなめし加工をしてからつくられます。 ※3、4、5、9
ほかにも、ガラス製品やホーロー製品をつくる過程でも塩が使われています。 ※3、4、5、10

生活に役立つ塩

塩は医薬品にも使われています。
例えば、点滴に用いられる生理食塩液は、人の血液成分に近い濃度のナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)が入った水です。
このほか、純度の高い塩は、化学分析の試薬などに使われています。 ※3、4、5、10

また、私たちが食べ物として塩を欲するように、動物も塩を欲するときがあります。
牛や馬、山羊などの動物は、餌や植物のほかに石や岩、木材などを舐めることがあります。これは、体内に必要な塩分が少なくなると自然と塩を欲するためです。牧場などでは、家畜のえさに塩を混ぜたり、塩の塊を置いて自由に舐めさせたりしています。 ※4、5

塩には、濃度によって氷点(水が凍る温度)を変えるという性質もあります。
塩の濃度が濃くなるほど氷点は低くなり、水100gに約23gの塩を溶かすと、その氷点はマイナス21℃まで下がります。
この性質を応用したのが、道路の凍結防止剤です。 ※3、4、5

人の体と塩

私たちの体に含まれる塩の多くは、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)として存在しています。
血液中や細胞の外側にある組織間液、骨などに含まれています。
人の細胞は薄い細胞膜で包まれており、その内側にも外側にも液体があります。内側と外側の圧が同じでなければ、細胞の形が変わってしまいます。
ナトリウムイオン(Na+)や塩化物イオン(Cl-)は、そのほかのイオンなどと細胞膜を通じて圧を保つことで、細胞を形づくっています。 ※4、5

また、体の中にあるナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)には、次のような働きもあります。

  • 体の酸塩基平衡(酸性とアルカリ性のバランス)を維持する
  • 消化液の成分となって、食べ物の消化を助ける
  • ナトリウムイオン(Na+)が神経の刺激を伝達する
  • ナトリウムイオン(Na+)がブドウ糖やアミノ酸の吸収を助ける

このように、私たちの体にとって塩はなくてはならない成分です。 ※4、5

参考資料

※3 食品保存と生活研究会編集 おもしろサイエンス塩と砂糖と食品保存の科学 2014年3月発行 日刊工業新聞社
※4 橋本壽夫(著) 塩の事典 2009年2月発行 東京堂出版
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) シリーズ食品の科学 塩の科学 2018年4月第6刷発行 朝倉書店
※10 公益財団法人塩事業センター 塩百科 塩の用途 https://www.shiojigyo.com/siohyakka/useto/

塩の種類

塩は大きく3種類ある

塩は、大きく分けると岩塩、天日塩、せんごう塩の3つの種類があります。
それぞれの特徴を見ていきましょう。

岩塩

文字通り、岩のような塊状の塩です。
岩塩は自然にできたものです。かつて海だった場所が地殻変動によって陸地の中に閉じ込められ、塩水の湖ができます。長い年月をかけて水分が蒸発し、大きな塩の結晶となります。地中に埋もれた結晶を掘り出したものが、岩塩です。
そのまま砕いて食用の塩として利用されている岩塩もありますが、一度溶解し、せんごう塩のような方法で再び塩としてつくり出す製法もあります。 ※2、4、5

天日塩

天日塩は、砂浜に海水をせき止め、天日で水分を蒸発させることでつくられる塩です。
海外の大規模な塩田塩浜でつくられ、輸入されてくるものが一般的です。
環境によって土砂が混入することもあるため、塩を取り出した後で洗浄します。その後、野積みして一定期間置くことでさらに水分を飛ばし、天日塩になります。 ※2、4、5

せんごう塩

せんごうは「煎熬」と書きます。
縄文時代には、海水を土器で煮詰めて塩を取り出す方法がすでにあったといわれています。現在では専用の釜で塩をつくっています。
日本には岩塩はなく、雨が多い気候のために天日塩もつくりにくいので、この方法が発展したといわれています。 ※2、4、5

参考資料

※2 公益財団法人塩事業センター 2019年4月発行 市販食用塩データブック2019年版 成山堂書店
※4 橋本壽夫 村上正祥(著) シリーズ食品の科学 塩の科学 2018年4月第6刷発行 朝倉書店
※5 橋本壽夫(著) 塩の事典 2009年2月発行 東京堂出版