日本には現在、さまざまな種類の塩が流通しています。
海水を原料としたもの、天日塩を原料としたもの、海外から輸入された岩塩を原料としたものなど、原料だけでもいくつかの違いがあります。また、製法によっても異なる種類の塩ができます。
私たちの食生活に欠かせない塩。その選び方について、いくつかの基準をお教えします。
目次
使い勝手
いい塩ってどんな塩?
たくさんの塩から、もっとも自分に合う「いい塩」を見つけるにはどうすればいいでしょうか。
まず基準としたいのが、つくりたい料理や調理法、食材、好みの味などによる使い分けです。※1
例えば、ある食材に使用すれば食材の良さを引き出すことができる塩も、別の食材に使用するとその食材の嫌な部分を引き出してしまう場合があります。
同じ料理や調理法であっても、別の塩を使うことで味わいを変化させることもできます。塩を適切に使い分ければ、毎日の食事がバリエーション豊かになるのです。※1
いい塩を選ぶために、塩がもつ3つの作用を覚えておきましょう。
料理の基本である「味の相互作用」にも関係するので、塩以外の食材を組み合わせるときにも当てはめることができます。
- 対比
対比とは、メインとなる食材の味を引き立てる作用です。
甘さと塩辛さのように、正反対の特徴をもつ味を際立たせることができます。
少量の塩を振ることですいかがより甘く感じるのは、この対比作用によるものです。※1 - 同化
同化とは、もともと食材がもっている味わいをより強くする相乗効果の作用です。
「合わせ出汁」のように、同じ種類の味を合わせることで、風味が増すというものです。
つまり、同じ成分を含む塩と食材を合わせることで、食材のうま味をアップさせることができます。※1 - 抑制
抑制とは、複数の味を組み合わせることによって、一方の味を弱めるという作用です。
特に酸味や苦みは、塩辛さによって抑えやすいとされています。コーヒーにごく少量の塩を入れると、酸味や苦みが抑えられ、マイルドな味わいになります。※1
塩の使い勝手いろいろ
いい塩を選ぶためにもうひとつ知っておきたいのは、使い勝手です。塩の形状や特徴の面から、使いやすさを見てみましょう。
まず見た目にもわかりやすいのは、サラサラした塩と、ずっしりと重い塩です。
塩がサラサラしているどうかは、結晶がどれだけ動けるかによって決まります。結晶の形や大きさ、含まれる水分の量によって異なります。これらを総合すると、結晶が立方体のような整った形で、粒が大きく、水分が少ない塩ほどよりサラサラした塩(結晶が動きやすい塩)といえます。
このような、粒が小さくて湿度が低く、サラサラとよく動く塩は、振り出し容器に入れ、肉や魚などの食材に均一に振りかけるのに向いています。※2、※3
塩を使うときは一般的に、ひとつまみや小さじ1杯など、かさ(容積)で量ります。
注意しなければならないのは、塩の種類によってかさが異なるという点です。サラサラした塩とずっしりと重い塩では、同じひとつまみや小さじ1杯でも重さ(重量)が異なります。
かさばりやすさは、結晶の大きさや形、結晶同士の隙間の大きさ、水分の量が関わっています。
結晶の形が整っていると結晶同士の隙間は詰まり、かさは小さくなります。
反対に、結晶の形がいびつで結晶同士の隙間が大きくなると、かさは大きくなります。
また、水分によって結晶の形が変化すると、かさも変化します。
塩分は重さで決まります。塩の形状や特徴によるかさばりやすさの違いについて知っておくと、味付けはもちろん、容器選びや保管にも役立てることができます。※3、※4
さらに、塩は種類によって溶けやすさが異なります。
塩の硬さは、結晶ができる速度によって決まります。岩塩のように、太古の時代から少しずつ結晶化してきたものは硬く、精製塩のように短時間で結晶化したものは軟らかく(溶けやすく)なります。※3
同じ重さであれば、結晶が小さいほど溶けやすくなります。また、溶けやすさは表面積によっても変わります。形がいびつな結晶やフレーク状の結晶は表面積が大きいため、溶けやすいということになります。※4
塩が溶けやすいと、振り塩が効きやすくなったり、食材となじみやすくなったりします。
砕いた塩をまろやかな味に感じたり、岩塩に甘味を感じたりするのは、結晶の粒の大きさが異なるものが存在するため、口の中で溶ける速さに違いがあるためです。※3
参考資料
※1 青山志穂(著) 2016年11月発行 日本と世界の塩の図鑑 あさ出版
※2 塩事業センター 塩百科 サラサラ性
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/usablity/murmuring.html
※3 尾方 昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
※4 塩事業センター 塩百科 かさばりやすさ
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/usablity/voluminous.html
※5 塩事業センター 塩百科 溶けやすさ
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/usablity/dissolve.html
塩の性質
塩の原料による違い
塩の種類を知るために、まずは原料に着目してみましょう。
日本における塩づくりは主に海水を原料としていますが、世界では海水以外に、岩塩、塩湖水、地下かん水を原料として塩をつくることもあります。世界全体で見ると、年間生産量の約6割は岩塩で、3割程度が海水塩となっています。 ※1、※3
同じ原料であっても、原料をどこで採取したのかによっても違いが出ます。
たとえば海水では海流の影響を受けやすく、特に寒流と暖流ではプランクトンの量が異なります。寒流にはプランクトンが多く含まれ、栄養たっぷりの海水となるため「こってり味」に。一方、暖流にはプランクトンが少ないため、「あっさり味」になる傾向があります。
寒流と暖流の中間地点では、バランスの取れた味になりやすいとされています。※1
同じ海水でも、採取する場所が沖合か河口付近かによって、できあがる塩の味が変わることがあります。
沖合の海水は、海流の寒暖や採取する深度から影響を受けます。一方、河口付近の海水では、陸地から流れ出るミネラル成分の影響を受け、味わいが異なります。
塩の製法による違い
次に着目したいのは製法です。
採取した原料をどのように塩にしていくかで、さまざまな違いが出ます。
海水塩では、もともと3.4%前後の塩分濃度である海水を、20~30%程度まで濃縮し、結晶化します。
海水に含まれるミネラル成分が結晶化するまでの時間は、そのミネラルによって異なります。どの程度の濃縮水から塩を採取するのかが、結晶の形や水分量に違いを出し、味わいの変化に直結します。※1
濃縮された海水から塩を採取する方法は、土地の広さや気候によって異なります。
日本のように土地が狭くて雨が多い地域では、釜を使って火力で行う方法が発達してきました。しかし海外では、広大な土地があり雨が少ない地域において、日光と風だけを利用した方法も行なわれています。※1
岩塩は、岩塩層という地層から削り出したものです。
岩塩の製法は大きく分けて2種類があります。岩塩層からそのまま結晶を削り出す方法と、削り出された結晶のうちナトリウム層のみを一度溶かし、再び結晶化させて高純度のナトリウムをつくる方法です。
岩塩層からそのまま削り出す製法では、土壌の影響が強く出るため、特徴的な仕上がりになります。
一方、一度溶かして再結晶化する方法では、成分がナトリウムのみになります。岩塩らしさはほとんどなくなり、精製塩と呼ばれるようになります。※1、※3
湖水塩は、塩分濃度の高い湖において自然に結晶化したものです。
湖水塩の製法には、岩塩のように削り出す方法や天日で湖水を蒸発させる方法などがあります。※3
※1、※3
塩の性質を知ろう
塩にはどのような性質があるのでしょうか。
塩の結晶は、形状や大きさ、色や含まれる水分量などが異なる、さまざまな種類があります。
これらの性質は、原料や製法に影響を受けます。結晶を見れば、どんな原料でどのような製法でつくられた塩なのかを推し量ることができます。※3
たとえば、結晶の形。基本的にはサイコロのような立方体(正六面体)の形をしていますが、結晶が成長する際の温度や湿度などの環境によっていろいろな形に変化します。※6
結晶の大きさは、立方体の場合、だいたい1mm以下にそろっています。市販されている塩の多くは0.2mm~0.75mmですが、それを超える大きなものも流通しています。※3、※7
結晶の色は、基本的には無色透明です。
白く見えるのは、粒表面に当たる光が乱反射しているためです。
白以外の色がついているものもあります。結晶化する際に、主成分である塩化ナトリウム以外の物質を取り込むためです。
たとえば岩塩には、赤や黒などの色が見られます。これは、岩塩層で含まれる鉱物の影響を受けるためです。
また、天日塩も、泥や砂の影響により灰色の着色が見られることがあります。※3、※8
塩に含まれる水分量は、種類によって異なります。
製塩の際、できあがった塩を高温で焼く焼成や、乾燥や脱水といった水分を減らす工程を経ると、水分の少ない塩になります。
水分が多く含まれる塩はしっとりとしていて互いにくっつきやすく、水分が少ないほどよりサラサラした塩になります。※9
水分の多いしっとりした塩は水分量が多いため含まれる塩分量は少なくなります。一方、サラサラした塩は水分量が少ないため含まれる塩分量が多くなります。サラサラした塩を料理に使う場合は、実際の食塩摂取量が自然と増えやすくなるため、注意が必要です。
にがりの秘密
塩には「にがり」が含まれるものもあります。にがりで塩の味がよくなるとか、なんとなく健康に良さそうなイメージを持っている人も多いかもしれません。
そもそもにがりとは何でしょうか。
にがりを漢字で書くと「苦汁」です。その名のとおり大変苦く、にがりだけを口にするのはおすすめできません。※3
にがりの主成分は、塩化マグネシウムです。
にがりは、海水から塩をつくった後に残る液体です。にがりを多く残した塩は、必然的に水分量が多い塩になります。塩に含まれる水分量が製法によって異なるように、にがりの量も製法によって調整することができます。マグネシウム以外の成分は製法によって変化するため、にがりの成分バランスも異なります。※10
できあがった塩に後から添加物としてにがりを加える製法もあります。その場合は、製品のパッケージに添加物表示を明記することが定められています。※3、※10
なお、食品として安全なにがりかどうかは、濃縮の程度ではなく、原料で決まります。
にがりは海水由来の成分であり、海水を採取する海洋環境によって有害物質が混入するか、濃縮されるかなどが、にがりの安全性に影響すると考えられています。※3
参考資料
※1 青山志穂(著) 2016年11月発行 日本と世界の塩の図鑑 あさ出版
※3 尾方 昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
※6 塩事業センター 塩百科 結晶の形
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality/shape.html
※7 塩事業センター 塩百科 結晶の大きさ
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality/size.html
※8 塩事業センター 塩百科 結晶の色
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality/color.html
※9 塩事業センター 塩百科 比重
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/about/data/weight.html
※10 塩事業センター 塩百科 塩の選び方 にがり
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality/bittern.html
安全性の目安となる「しお公正マーク」
塩に含まれる成分
塩の主成分は塩化ナトリウムです。
ほかにもマグネシウム、カルシウム、カリウムなどのミネラル成分が含まれています。※3、※10
塩に複数のミネラルが含まれているのは、原料となる海水や岩塩などにもともと含まれているからです。
ミネラルは、生命を維持するために欠かすことのできない重要な成分です。しかし体の中でつくり出すことができないため、外から取り入れるしかありません。※10
また、原材料に含まれる成分以外に、添加物として製造工程で追加されることもあります。
主な添加物としては、サラサラした形状を保つための炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどがあります。
固結防止や緩和を目的とした添加物として、日本ではクエン酸鉄アンモニウムや無水リン酸ソーダ、無水硫酸マグネシウムなどが用いられます。
また、日本では食品添加物として認められていませんが、海外には甲状腺障害防止のために、ヨウ素(ヨード)を添加した塩もあります。
ほかにも、商品価値を高める目的でマグネシウムなどのミネラルを含むにがりを後から加えたり、うま味物質として用いられるグルタミン酸ナトリウムを添加物として加えたりすることもあります。※11、12
食用塩の品質規格
多くの種類が存在している食用の塩ですが、実は日本では法律によって品質規格は定められていません。
国際的な食品規格であるCODEX(コーデックス規格)では、さまざまな食品の国際規格が検討されており、当然ながら食用塩の規格も定められています。
そこで、日本で流通する塩の多くを取り扱う塩事業センターでは、塩についての品質規格を定めています。※11
日本塩工業会も自主基準として、同会傘下の企業が製造した塩についての品質規格を定めています。※12
しお公正マークを確認しよう
塩のパッケージにはさまざまな情報が載せられています。
店頭で塩を選ぶうえで1つの目安になるのが、「しお公正マーク」です。
このマークは、食用塩公正取引協議会の定める表示基準に則った商品につけられます。
対象となるのは、一般消費者向けに食用として販売される、包装された塩です。
食用以外の塩や包装されていない塩は対象外です。また、塩以外の食品が混ぜられているものや、塩化ナトリウムの含有量が40%未満のものも対象外となります。※13、※14
なぜ、このようなマークが付けられるようになったのでしょうか。
2002年、日本では塩の製造や輸入、販売が自由化されました。
その際、品質や安全に関するルールがない状態での塩事業への新規参入が増え、誇大広告や価格上昇、思わせぶりな表示や紛らわしい表示が多くなりました。※3
消費者からの苦情も多く、2004年には公正取引委員会から「食塩の表示に対する警告」が発せられる事態となりました。これに対し、業界内でも自主基準を策定するという動きがあり、2008年に食用塩公正取引協議会が発足しました。
2010年には「食用塩の表示に関する公正競争規約および施行規則」が施行され、食塩に関する表示基準が定められることとなったのです。※3
参考資料
※3 尾方 昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
※10 白澤卓二(著) 2016年5月発行 すごい塩 あさ出版
※11 塩事業センター 塩百科 食用塩の品質
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality-shape-shokuyoen.html
※12 日本塩工業会 食用塩の安全衛生ガイドライン
http://www.sio.or.jp/pdf/guideline01.pdf
※13 食用塩公正取引協議会 規約の概要
http://www.sio.or.jp/pdf/guideline01.pdf
※14 食用塩公正取引協議会 規約解説
http://www.salt-fair.jp/explain/