世界には、多種多様な塩が存在しています。
でも、塩っていったい、どのようにつくられているのでしょうか。
昔と今では製塩方法は大きく変わっていますし、日本と海外で比べても製塩方法は異なります。
現在の日本の代表的な製塩方法について詳しく見ていきましょう。
目次
塩づくりの工程
塩づくりの3つの工程
塩づくりの工程は、濃縮、晶析、仕上げ(加工)の3つに分けられます。
- 濃縮方法:天日、イオン膜、逆浸透膜、溶解、立釜、平釜、浸漬など
- 晶析方法:天日、立釜蒸発、平釜蒸発、採掘など
- 仕上げ:粉砕、洗浄、乾燥、混合など
このなかからいくつかの方法を組み合わせながら、塩はつくられています。※1、2
日本と海外の代表的な製塩方法は
塩資源は国によってさまざまです。
日本では、海水が主な塩資源です。
海水を濃縮した後、その濃い塩水を煮詰めて水分を蒸発させ、塩の結晶を取り出していきます。※1、2
日本には岩塩鉱山や塩湖がなく、これらの原料を国産でまかなうことができません。そのため、塩の原料は海水のみです。
しかし、日本は雨が多く湿度が高いため、太陽熱や風などで海水を蒸発させて塩をつくる「天日製塩」の行程に向きません。
海水に含まれる塩分はわずか3%ほどですから、海水から水分を取り除くのはかなり大変な作業です。
海水を直接煮詰める方法では、かなりのエネルギーを費やし、時間もかかってしまいます。※1、2、3
そこで考え出されたのが、海水を濃縮してから煮詰め、塩をつくる(晶析する)方法です。
現在は主に、「イオン交換膜製塩法」と「溶解再製法」によって塩はつくられています。※1、2、3
詳しい方法についてはのちほど説明しますが、イオン交換膜を使ったり、輸入の天日塩を水に溶かしたりして濃い塩水をつくり、それを煮詰めて結晶をつくるとうものです。
結晶を乾燥させたり、添加物を加えたりしたものもあり、できあがった塩もさまざまです。※1、2
一方、海外における主な塩資源は、岩塩や塩湖です。※1、3
塩資源が何かを知りたい場合は、塩のパッケージに印刷された原材料名を見ると分かります。※4
岩塩鉱山や塩湖がある地域では、「乾式採鉱法」や「溶解採鉱法」といった方法で、岩塩や湖塩をつくっています。
岩塩は主に、ヨーロッパ、北アメリカ、ロシア、モンゴル、中国などで多く産出されます。
雨が少ないメキシコやオーストラリアでは、「天日製塩法」という方法で太陽熱や風を利用し、海水を蒸発させています。
食用として日本に輸入される塩の多くは、この天日塩です。※1、3、5、6
参考資料
※1 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※2 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版
※3 尾方昇(著) 2009年3月発行 塩のちから なぜ塩がないと人は生きられないか 素朴社
※4 食用塩公正取引協議会
http://www.salt-fair.jp/helpful/index.html
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) 2003年6月発行 塩の科学 朝倉書店
※6 尾方昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
イオン交換膜製塩法
イオン交換膜製塩法とは
現在の日本における代表的な製塩法の1つ、「イオン交換膜製塩法」について説明します。※1、2、3、5、6
- 海水を汲み上げ、濾過機にかけ不純物を取り除く
- イオン交換膜透析槽で海水を濃縮し、濃い塩水をつくる
- 濃い塩水を真空式蒸発缶(立釜)で煮詰める
- 塩の結晶ができる
- 遠心分離機で余分な水や苦汁(にがり)を取り除く
- 乾燥機にかけてサラサラにする
- 塩の完成
このように濃縮と煮詰め工程を分けて行います。太陽熱や風力などを利用しにくい日本だからこそ発展した製塩法といえます。※6
純国産塩はほとんどがこの「イオン交換膜製塩法」によってつくられています。※6
海水の中でイオンにならない物質は、これらの膜を通りません。
もし海水が汚染されていても、濃縮されたかん水には汚染物は入ってこないということです。
したがって、イオン交換膜製塩法でつくる塩は安全性が高いといえるでしょう。※6
イオン交換膜のしくみ
イオン交換膜製塩法において濃縮工程のカギとなる、イオン交換膜について詳しく見ていきます。※1、2、6
塩はナトリウムイオン(NA+)と塩化物イオン(Cl-)に分かれており、海水にはこれらのイオンが存在しています。※1、2、6
海水は濾過機にかけられた後、イオン交換膜透析槽を通して濃い塩水になるわけですが、この仕組み仕組みについて少し説明します。※1、2、6
イオン交換膜には、陽イオンを通す膜(陽イオン交換膜)と陰イオンを通す膜(陰イオン交換膜)があります。海水を濃縮するのに、この2つの膜は欠かせません。
イオン交換膜透析槽の両側に、プラス電極とマイナス電極を置きます。その2つの電極の間に、数千枚もの陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べます。※1、2、6
海水に電気を流すと、ナトリウムイオン(NA+)はマイナス極に向かって移動し、塩化物イオン(Cl-)はプラス極に向かって移動します。
ナトリウムイオン(NA+)は陽イオンなので、陽イオン交換膜を通りますが、陰イオン交換膜は通り抜けることができないため、そこにとどまります。
一方、塩化物イオン(Cl-)は陰イオンなので、陰イオン交換膜を通りますが、陽イオン交換膜は通り抜けることができないため、同じようにそこにとどまり続けます。※1、2、6
すると、交互に置かれたイオン交換膜のうち、一つ置きに濃い塩水(かん水)がたまります。
そこから取り出された濃い塩水だけが真空式蒸発缶に送り込まれ、煮詰め工程が行われます。※1、2、6
参考資料
※1 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※2 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版
※3 尾方昇(著) 2009年3月発行 塩のちから なぜ塩がないと人は生きられないか 素朴社
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) 2003年6月発行 塩の科学 朝倉書店
※6 尾方昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
溶解再製法
溶解再製法とは
日本で行われているもう1つの代表的な製塩法が、天日塩を精製するために行われる「溶解再製法」です。※1、5
その名のとおり、天日塩を溶解し、再製する方法です。
日本は気象環境により、天日塩をつくりやすい環境ではありません。
そのため、溶解再製法で使用する天日塩は、主にオーストラリアやメキシコなどの外国から輸入されたものです。※1、5
天日塩の溶解再製法は、次のような工程で行われます。
- 輸入した天日塩を水に溶かす
- 泥や砂などの不純物を取り除き、濃い塩水をつくる
- 精製された濃い塩水を立釜で煮詰める
- 塩の結晶ができる
- 使いやすいように加工し、塩の完成
輸入された天日塩をそのまま使うのではなく、いったん水に溶かしてから、再び塩として精製しているのです。※1、5
できあがった塩の特徴
結晶になった塩は、乾燥させたり添加物を加えたりして、使いやすいように加工されます。
日本国内で製造された塩は、塩化ナトリウムが99%以上と高純度なものが多いです。
固結防止剤を加えた塩は固まりにくく、サラサラして流動性がよいです。※6
原料である天日塩が外国産である場合は純粋な国産塩とはいえませんが、製造場所が日本国内であれば、「国内製造塩」と呼ぶことはできます。
イオン交換膜製塩法でつくられた塩と同様に、質のよい塩といえるでしょう。※6
参考資料
※1 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) 2003年6月発行 塩の科学 朝倉書店
※6 尾方昇(著) 2011年9月発行 塩入門 日本食糧新聞社
塩は昔、国が管理していた!
日本の塩専売制度とは
いまやスーパーやコンビニなどでも簡単に手に入る塩ですが、昔は塩の供給量がずっと少なく、手に入らなくなる状況も想定されていました。
そのため、1905年に「塩専売制度」が始まり、国がすべての塩を管理していくこととなりました。※1、2、5
かつては塩を販売できる店舗も限られていましたので、青背景に白い文字で「塩」と書かれた看板を、見たことのある人もいるのではないでしょうか。
塩専売制度が施行されてから廃止されるまでの92年間で、日本の塩業は大きく発展していきました。
まず、海水を濃縮する過程が、江戸時代初期から続いてきた入浜式からイオン交換膜製塩法へと変わっていきました。
イオン交換膜製塩法が確立されてからは、質の高い塩が安い価格で手に入れられるようになりました。
1997年に塩専売制度が廃止されると、多くの塩が製造されるようになりました。
さらに海外から輸入されるようにもなり、一般的な小売店で販売できるようになりました。※1、2
現在は、塩事業センターが塩の不足に備えて、塩の備蓄などを行っています。※1
日本の主な製塩工場
昔は海に面していない地域を除き、ほぼ全国に塩田がありました。
しかし、塩業整備による合理化に伴い、製塩を行っている土地はだんだん減っていきました。
現在、海水から塩をつくっている工場は、福島県いわき市、兵庫県赤穂市、岡山県玉野市、香川県坂出市、徳島県鳴門市、長崎県西海市の6地域だけとなっています。※1、2
参考資料
※1 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※2 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版
※5 橋本壽夫 村上正祥(著) 2003年6月発行 塩の科学 朝倉書店