家庭でも食用として身近な塩。しかし、塩のパッケージをじっくり見る方はどれくらいいるでしょうか。
塩がどんな原料からつくられているのかは、原材料名のところに書かれています。
そこに外国の国名が記載されていれば、輸入された原料を使っているということになります。
日本ではどのくらいの塩が生産され、海外からはどのくらいの塩を輸入しているのか、塩に関するさまざまなデータを見ていきましょう。
目次
日本と海外の塩生産量
日本の塩生産量
英国地質調査所(BGS; British Geological Survey)がまとめた、世界の鉱物生産に関する統計資料『World Mineral Production 2014-2018』をもとに、日本の塩生産量を見てみましょう。
この資料によると、日本では2018年度に約929,000トンの塩が生産されていました。※1、2
膨大な量に思えますが、これらがすべて食用となるわけではありません。※1
海外の塩生産量
同じ資料をもとに、海外の国々における2018年度の塩の生産量を、1位~8位のランキング形式にしてみました。※3、4
1位・・・中国 (58,361,700トン)
2位・・・アメリカ (42,000,000トン)
3位・・・インド (29,000,000トン)
4位・・・ドイツ (18,507,178トン)
5位・・・オーストラリア (13,582,811トン)
6位・・・メキシコ (10,852,583トン)
7位・・・カナダ (10,691,457トン)
8位・・・チリ (10,012,105トン)
世界の塩生産量(年間)の合計は、およそ280,000,000トンです。
1~6位までの国で、世界の生産量の6割以上を占めています。
国によっては、「Rock Salt(岩塩)」や「Sea Salt(海水からつくられた塩)」など、さまざまな原料の塩を生産しているところもあります。
日本の生産量はおよそ929,000トンですから、海外各国の塩生産量と比べるとかなり少ないことが分かります。※3、4
参考資料
※1 財務省 令和元年度塩需給実績 https://www.mof.go.jp/tab_salt/reference/salt_result/st_zisseki20200904.htm
※2 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※3 財団法人塩事業センター 統計・各種調査 世界の塩生産量https://www.shiojigyo.com/study/upload/seisan2018.pdf
※4 BRITISH GEOLOGICAL SURVEY World Mineral Production2014–18 https://www2.bgs.ac.uk/mineralsuk/download/world_statistics/2010s/WMP_2014_2018.pdf
日本はどのくらい塩を消費しているの?
日本の塩消費量とその内訳
次に、財務省が集計した「塩需給実績」を見てみましょう。日本国内での塩消費量は、2018年度はおよそ7,976,000トン、2019年度はおよそ7,815,000トンでした。
この数字は、国内での塩生産量をはるかに超える数字です。※1、5
消費量の内訳も見ていきましょう。
小売店を通して販売され、家庭や飲食店などで食用として使用された「生活用」の塩は、2018年度は147,000トン、2019年度は135,000トンが消費されていました。
調味料や加工食品に使われた「食品工業用」の塩は、2018年度は745,000トン、2019年度は690,000トンが使われていました。
さらに、一般工業用や融氷雪用、家畜用、医薬用として使われた塩は、2018年度は956,000トン、2019年度は836,000トンが使われていました。
消費量の内訳でもっとも多いのが「ソーダ工業用」です。2018年度は6,130,000トン、2019年度は6,155,000トンでした。※1、5
この結果から、日本では食用よりも工業用として使われる塩の方が圧倒的に多く、用途も多岐にわたることが分かります。※1、5
家庭での食塩の消費量は
私たちが食用として使っている「食塩」ですが、1世帯あたり、1年間でどのくらいの量を購入しているのでしょうか。
総務省統計局がまとめた家計調査をもとに見ていきます。※6、7
まずは1世帯当たり(二人以上の世帯)の年間食塩購入数量です。※6
2003年には3,044gあったものの、2004~2015年はおおむね減少傾向にあり、2,000g台となりました。
2016年にはついに2,000gを下回り、2018年は1,769gにまで減少しました。※6
つまり、年を追うごとに、家庭での食塩購入数量が少なくなってきていることが分かります。
外食産業の発展により家庭消費が減ったとも考えられますが、健康志向の高まりによる減塩生活や減塩食品の普及など、食生活の変化も関係しているのかもしれません。※6
次に、同じく家計調査のデータにもとづいて、2017~2019年における「食塩」の購入数量(g)が多い日本の都市を上位8位まで挙げました。
※7
1位・・・長野市 (2,961g)
2位・・・青森市 (2,910g)
3位・・・山形市 (2,892g)
4位・・・秋田市 (2,322g)
5位・・・新潟市 (2,249g)
6位・・・甲府市 (2,194g)
7位・・・福島市 (2,139g)
8位・・・岡山市、佐賀市 (2,099g)
自分の住んでいる都市の食塩購入数量がどのくらいか気になる方は、総務省統計局がまとめた家計調査(二人以上の世帯)の、品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング[2017年(平成29年)~2019年(令和元年)平均]を確認してみるとよいでしょう。※7
最後に、年代別の食塩購入量を見ていきます。
2018年家計調査の、世帯主の年齢階級別にみる1世帯当たり(二人以上の世帯)年間の品目別購入数量から、年間の食塩購入数量(g)が分かります。※6
29歳以下・・・551g
30~39歳・・・709g
40~49歳・・・1,004g
50~59歳・・・1,761g
60~69歳・・・1,836g
70歳以上・・・2,581g
この結果から、世帯主の年代が高い世帯ほど、塩を多く購入していることが分かります。※6
参考資料
※1 財務省 令和元年度塩需給実績 https://www.mof.go.jp/tab_salt/reference/salt_result/st_zisseki20200904.htm
※5 財務省 平成30年度塩需給実績
https://www.mof.go.jp/tab_salt/reference/salt_result/st20190628.htm
※6 総務省統計局 家計調査(二人以上の世帯)<品目分類>各年の都道府県庁所在市別支出金額及び購入数量
https://www.stat.go.jp/data/kakei/rank/singleyear.html
※7 総務省統計局 家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2017年(平成29年)~2019年(令和元年)平均)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html
日本は塩輸入大国である
日本の塩輸入量
日本は、塩の生産量が比較的少ない国です。年間の消費量をまかなうために、はたしてどのくらいの塩を輸入しているのでしょうか。
財務省の塩需給実績によると、日本は2018年度に7,296,000トン、2019年度に7,094,000トンもの量を輸入していました。※1、5
この輸入量は、国内での生産量をはるかに超える量となります。
つまり日本は、塩の自給率が低く、外国からの輸入に頼っていることが分かります。※1、5
外国から輸入された塩は、ほとんどがソーダ工業用に使われています。
主にオーストラリアやメキシコから輸入されています。※2
ソーダ工業とは、塩を原料としてさまざまな化学薬品を製造する基礎素材産業のこと。つくり出された化学薬品を原料・原材料とは、多様な工業製品に役立てられています。
たとえば、石油を原料とする石鹸や洗剤、ビニール製品なども、ソーダ工業の力がないとつくり出すことができません。
日本は世界でも有数の工業力をもっており、ソーダ工業でつくり出された製品は、年間数千億にも上ります。
こうした産業の中で使用される塩は、海外からの輸入に頼っているのです。 ※9
海外の輸入量
世界各国の塩の状況も見てみましょう。
2018年度の塩の生産量と需給状況をみると、日本では生産量が輸入量よりはるかに少なく、塩の自給率はわずか11%程度しかありません。それに対し、海外の塩生産量上位国は、生産量の方が輸入量よりはるかに多く、塩の自給率が高いことが分かります。※5、8
特に、オーストラリアやチリでは塩の自給率が1,000%を超えており、自国で生産した塩のほとんどを輸出しています。※8
中国やアメリカも生産量は多いのですが、消費量も多いため、自給率は100%に届きません。ちなみに、塩の自給率は中国で88%、アメリカで71%です。
※8
参考資料
※1 財務省 令和元年度塩需給実績 https://www.mof.go.jp/tab_salt/reference/salt_result/st_zisseki20200904.htm
※2 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※5 財務省 平成30年度塩需給実績
https://www.mof.go.jp/tab_salt/reference/salt_result/st20190628.htm
※8 公益財団法人塩事業センター 統計・各種調査 2018年国別生産量及び需給
https://www.shiojigyo.com/study/upload/seisan10_2018.pdf
※9 日本ソーダ工業会 ソーダ工業の概要
https://www.jsia.gr.jp/outline/
日本と海外の塩の品質はどうなの?
食塩の品質規格
食塩は体内に入るものなので、品質の基準についても知っておくと安心です。
食品の国際規格であるCODEX(コーデックス規格)は、世界の消費者の健康を保護し、公正な食品貿易の実施を促進することを目的とする食品規格委員会(CAC)が定めたもの。食用の塩についても、このなかで品質規格が定められています。
しかしコーデックス規格はあくまで世界的な基準であり、日本では食用添加物として認められていない添加物も使用可能となっています。
例えば、海外では塩に添加されることがあるヨウ素(ヨード)は、日本では認められていない食品添加物です。
日本人は海藻を食べる習慣があり、十分なヨウ素が取れるため、あえて食品に添加する必要がない、というのがその理由のようです。※10、11
海外から輸入されてきた塩のなかには、さまざまな添加物が加えられているものもあります。※10、11、12
商品パッケージの裏にある記載をよく読み、どのような添加物などが使用されているのか、しっかりと確認しましょう。
日本と海外の品質の違い
日本国内では現在、あらゆる種類の食用塩が売られていますが、法律による品質規格は定められていません。そこで、塩事業センターでは取り扱う商品について、品質規格を定めています。
また、塩事業センターでは塩の品質を把握するために、市販の食用塩について品質調査を実施しています。※12
では、日本と海外の食塩の品質に違いはあるのでしょうか。日本調理科学会誌に掲載された「海外市販食用塩の品質調査 ―国内市販食用塩との比較―」という資料をもとに、日本と海外の食用塩の品質について比較した調査結果を見てみましょう。※12
- 海外の食用塩は、日本の食用塩と比較すると、塩化ナトリウム純度が高い傾向にある
- 日本で生産された商品は塩化ナトリウム純度が平均91.73%だが、多くの国の商品では99.0%以上であった
- 海外の食用塩には添加物が多く含まれ、その種類も多様だった
- 日本では食品添加物として認められていないヨウ素やフッ化物が添加された商品もあった
- 安全性の指標となるコーデックス規格で定められている基準の上限値を超えた商品もあった ※12
まとめると、海外の食用塩は日本の食用塩よりも塩化ナトリウム純度が高い反面、添加物も多く使用されているものがあるようです。※12
参考資料
※10 公益財団法人塩事業センター 塩百科 食用塩の品質 https://www.shiojigyo.com/siohyakka/select/quality-shape-shokuyoen.html
※11 橋本壽夫(著) 2009年2月発行 塩の事典 東京堂出版
※12 J-STAGE海外市販食用塩の品質調査 国内市販食用塩との比較https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/48/2/48_136/_pdf
塩は何に使われている?
塩は人間の体内にもある
血液からつくられる汗をなめると塩辛く感じるように、私たちの体内には、塩分が含まれています。
塩は体内でナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)に分かれて働いています。※2、13
体内における塩の働きをみてみましょう。
細胞の中と外の体液濃度を一定に保つ
人間の体は、およそ37兆個もの細胞が集まってできているといわれています。※2、13
細胞は塩、つまりナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)がないと生きていくことができません。※2、13
細胞は細胞外液に囲まれていますが、その細胞外液にはナトリウムイオン(Na+)が溶け込んでいます。
ナトリウムイオン(Na⁺)の働きにより、細胞の中と外の体液濃度がほぼ一定に保たれています。※2、13
神経に働きかけ刺激や命令を伝える
神経細胞は、温度や痛み、味などの刺激を脳へ伝えたり、命令を筋肉に伝えたりします。
そういった刺激や命令を伝えるときに、ナトリウムイオン(Na⁺)が働いています。※2、13
胃の中の食べ物の消化を助ける
胃液の主成分は塩酸です。塩酸には、食べ物と一緒に入ってくる細菌をやっつける働きもあります。この塩酸は、体液中の塩化物イオン(Cl⁻)からつくられます。
※2、13
栄養素の吸収を助ける
炭水化物が分解されると糖に、タンパク質が分解されるとアミノ酸になります。
糖やアミノ酸などはナトリウムイオン(Na⁺)と結びつくことで吸収されます。※2、13
食品や料理に欠かせない塩
塩は、食べ物にかけたり、調理に使ったりするだけではありません。みそやしょうゆ、マヨネーズなどの調味料の原料となるほか、チーズやソーセージ、カップ麺などの加工食品にも使われています。※12、14、15
塩がもついくつかの作用を挙げてみましょう。
脱水作用・防腐作用
塩には、食べ物の水分を抜く働きがあります。さらに、食べ物の中に塩分が入ることで、雑菌が繁殖するのを防ぎます。※12、14、15
発酵を助ける作用
発酵自体は微生物により促されますが、塩によって雑菌の繁殖を抑制し、微生物が働きやすい環境をつくることができます。※14、15
酸化酵素の働きを止める作用
塩には、酸化酵素の働きを止める作用があります。酸化によって色が変わってしまう食材に塩を加えることで、食材の色を鮮やかに保つことができます。野菜をゆでるときに塩を少し入れるのは、そのためです。※14
タンパク質を変化させる作用
肉や魚の下ごしらえで塩を振るのは、余分な水分とともに生臭さを取るためだけではありません。塩によってタンパク質が凝固し、身が引き締まることでうま味を逃がさないという理由もあります。また、魚のすり身をつくるときに塩を入れると、粘り気が出て成型しやすくなります。
このように、塩にはタンパク質が凝固するのを早める作用や、タンパク質を溶かす作用があります。※14
おにぎりや漬物をつくったり、野菜やパスタをゆでたり、肉や魚の下ごしらえに使ったり……このように、塩は食材に欠かせないものです。そのため、多くの家庭に塩が常備されていることでしょう。
昔はほとんどの家庭に冷蔵庫がなかったので、魚や野菜を塩漬けにして保存していました。味噌や梅干しも、自家製でまかなう家庭が多くありました。昔の方が、家庭で多くの塩を使っていたと考えられます。
現在は家庭で塩を使う機会は減りましたが、外食や加工品が増えており、人が口にする塩の量はさほど変わっていないといえるのかもしれません。※12
食用以外にも用途がある
塩は、食用以外にもさまざまな用途で使われています。
消費量の説明でも少し触れましたが、日本で消費されている塩の大半が、食べ物や調味料ではなく、ソーダ工業で使われています。※2、13、14
さまざまな産業の基礎原料として塩は役立っているのです。
ソーダ工業用に使われる塩は、輸入された天日塩がほとんど。日本は塩の輸入大国ですが、輸入された塩の多くは、ソーダ工業の分野で使用されています。ちなみに、食用として使われる塩は、ほとんどが日本国内でつくられた塩です。※13、14
食用以外に、塩がどのようなものに使われているか、いくつか例を挙げてみます。
アルミホイル、ガラス、プラスチック、合成繊維、ティッシュペーパー、染料、化学薬品、合成ゴム、合成皮革、医薬品、家畜の飼料、道路用凍結防止剤など、私たちの身近なものばかり。※2、13、14
こんなにたくさんの製品に塩が使われていたなんて、驚きです。
また、動物も塩を欲しがるのをご存知でしょうか。
例えば、牧場にいる牛は牧草を主に食べますが、牧草にはカリウムが多く含まれています。哺乳類である牛は、血液や細胞の中に多くの塩を蓄えて生きています。特に乳牛は、牛乳の中に多くのナトリウムを排出するため、体の中の塩がどんどん外へ出てしまいます。塩が欠乏すると、塩分を摂ろうとして石や木材、ほかの牛の汗を舐め、やがて餌を食べなくなってしまいます。
こうした塩欠乏を防ぐために、牧場の片隅には「圧縮成形した塩の塊」が置かれています。
馬や羊、ヤギ、豚、鶏などの家畜も同様に、適度な塩を与えることで、生産性を維持できます。※13
塩は、私たちの生活になくてはならないものだといえるでしょう。※2、13、14
参考資料
※2 財団法人塩事業センター(監修) 2008年7月発行 塩の大研究 PHP研究所
※13 尾方昇(著) 2009年3月発行 塩のちから なぜ塩がないと人は生きられないか 素朴社
※14 橋本壽夫 村上正祥(著) 2003年6月発行 塩の科学 朝倉書店
※15 青山志穂(著) 2016年11月発行 日本と世界の塩の図鑑 あさ出版